新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

伸介・美保の欧州行

 本書は津村秀介の長編50作目、レギュラー探偵浦上伸介と前野美保が容疑者のアリバイ崩しに挑むいつものお話しだ。ただちょっと違うのは、殺人事件があったときには容疑者は欧州出張をしていたこと。1件の殺人は成田発ローマ行のJAL便の中、もう1件はANA便でパリから成田には着いていたのだが、殺害現場の大阪までは行きつくことができない。JTBの時刻表だけでは、このアリバイは崩せない。

 

 またいつもはナイフで急所を一突きとか、ロープで首を絞めて即死とか、割合あっさりした「殺し方」でちょっとリアリティがないのが浦上伸介ものの欠点なのだが、今回は3件の殺人がいずれもトカレフ拳銃で至近距離から急所に2~3発という、これなら死ぬだろうという納得の殺し方になっていた。その両面から、50作目の記念として意欲的な作品を作者は送り出したものと思われる。

 

 まず横浜駅近くのスナックで呑んでいた若いツアーコンダクターの青年が、背の高い男に誘い出されて射殺される。さらに数日後大阪駅近くで友人と別れた若妻が、同じように射殺される。そしてその日のうちに、今度は神田駅近くで小指を詰めたヤクザ者が、同じ拳銃で撃たれて死んだ。

 

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 のちに拳銃は駅のコインロッカーから見つかるのだが、拳銃を入れてあった箱についていた指紋は伸介・美保と同じ「週刊広場」で仕事をしているフリーカメラマンのものだった。しかし彼は、横浜の事件の時にはすでに出国、大阪の事件の時には成田に着いたばかり、第三の事件だけは犯行可能なのだがいずれも同じ拳銃が使われている。伸介・美保は、容疑者のカメラマンが出張したのと同じ日程・同じホテルとフライトをとってアリバイ崩しの旅に出ることになる。

 

 今「コロナ禍」で甚大な被害を受けているパリとローマを舞台に、初めて両都市を訪れる二人が街の名所を巡るシーンがほほえましい。また本書(1996年発表)のころには、10年もののパスポートがなく、緩和されつつあったとはいえ海外旅行は規制が多く面倒くさいものだったことがわかる。

 

 僕も親しんでいる二つの街、ある意味懐かしく読みました。本当は同僚のアリバイ崩しという悩み深いミッションを負った二人なのですが、いつもの日本の観光地巡りよりずっと生き生きして見えましたよ。