新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

イタリア人探偵ベネデッティ教授

 本書は1979年発表の、ウィリアム・L・デアンドリアの第二作。デビュー作「視聴率の殺人」の<ネットワーク>の社内探偵マット・コブとは違い、イタリア人の名探偵ニッコロウ・ベネデッティ教授が探偵役を務める。デビュー作以上の評価を得た作品で、本格ミステリー30選を選べば必ず入ってくる傑作である。デアンドリアは本書でその地位を不動にした。

 

 舞台はニューヨーク州の小さな町スパータ、人口19万人ほどの小さな企業と大学があるだけの普通の町だ。この冬は異常な寒波に襲われて、街ごと凍えそうになっている。そこに降ってわいたのが、HOGという凶悪犯による連続殺人事件だった。

 

 新聞記者テイタムの前を走っていたワーゲンが、折れて倒れてきた標識に当たって事故を起こした。2人の女子学生が死に1人が重傷を負った。標識の根元にはボルトカッターで切れ目を入れた痕があった。2日後、テイタムにはHOGを名乗る犯人から「俺が殺した。まだ続ける」との挑戦状が送られてくる。その後孤独な老人が階段から落ちて、8歳の男の子が落ちてきた氷片にあたって、女子大学院生が麻薬の過剰摂取で死ぬ。いずれもにHOGから犯行声明が届いた。

 

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 町はパニック状態になり、些細な事故もHOGの仕業だと疑ったり、銃を買おうと人が銃砲店に殺到するようになる。捜査を指揮するフライシャー警視は、私立探偵ロイを通じて音に聞こえた探偵ベネデッティ教授に助けを求める。

 

 このイタリア人、哲学者というが大学での研究は犯罪学。何人もの教え子を使って捜査に加わったが、教え子は死んだり、犯罪者や独裁者、あるいは成功した事業家になるなど浮き沈みがはげしい。私立探偵になったロイが珍しい普通の生徒である。外観はロイによれば「壮麗な服装のイタチ」で、教え子にタバコをねだるなど吝嗇である。まあ、名探偵に欠点は必要でもあるのだが・・・。

 

 教授到着後も元保安官補などが殺され、容疑者は徐々に絞られるのだがある時点から教授は捜査会議に出ず、絵ばかり描くようになる。言葉遊びが好きな作者故、ロイたちの捜査会議はHOGの語源についての議論になるHOGが豚を意味する隠語であって、被害者の苗字が豚の品種と同じだなどの話が3章にわたって続く。英語を母国語としない読者は苦労する。翻訳者の苦労は並みではないし。

 

 確かに名作で、45年前に読んだが最後の一文は今でも覚えています。懐かしかったです。