新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

警官を主人公にしてみると

 何度か深谷忠記の作品を取り上げているが、下記の記事で書いたように壮&美緒シリーズは探偵役は魅力的なのだが素人探偵ゆえに事件への関わり方が難しい。そこで作者は「ハーメルンの笛を聴け」などの単発ものミステリーを二作に一作ほど書くようになっている。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/02/14/000000

 

 本書(1995年発表)はそのいずれでもない、警視庁の捜査一課強行犯捜査係の宇津木警部補を探偵役に据えたものである。宇津木警部補は「飛鳥殺人事件」(1992年発表)でデビューした時37歳。妻鮎子と一人娘晴美の三人暮らしだが、宇津木の不規則な勤務もあって鮎子が精神を病んで娘と実家に帰ってしまい、この時は一人暮らしだった。

 

 本書では鮎子の心の病も癒えて三人の生活が戻ってきたのだが、宇津木の忙しさは相変わらずだ。今日も休日のはずなのに、国会議員が殺された件で呼び出されてしまう。連立与党の一角を占める小政党の党首で「政界のコウモリ」とあだ名される男が、秘密に借りていた中野のマンションで撲殺されたのだ。現場から逃走したらしい30歳前後の美女という手掛かりはあったが、有力容疑者は浮かんでこない。たちまち数カ月がたった。

 

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 今度は八王子に住む鉄鋼会社の従業員が、送られてきた青酸入りソーセージを食べて急死する。これは壮&美緒シリーズでおなじみ勝部長刑事の担当になる。しばらくは2つの事件が並行して描かれるのだが、思わぬところから結びつきが見えてくる。この後木曽でやはり青酸毒で殺された男の事件も絡んできて、三つの捜査本部が合同捜査をすることになる。

 

 読み終わってみると、なんとなく捜査資料を小説形式で読んだ印象が大きい。壮&美緒シリーズは勝部長刑事らの地道な捜査と、美緒のおしゃべり、壮の「宇宙人」のような推理が入り混じってその落差を感じられるのだが、本書では同じような捜査過程が三つ描かれるだけだ。

 

 政治家と建設会社の癒着や、日本人と偽装結婚して来日する中国人の話など、社会的問題がちりばめられているが「社会派ミステリー」というほどでもない。作者のリアリティを追求したいという気持ちはわかるのだが、小説としての面白さを失ってしまったかもしれませんね。