新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シェークスピア劇の異邦人

 よれよれレインコートでフケと葉巻の灰をまき散らすやぶにらみの小男、とても探偵役には似つかわしくないのだがそれが難事件を鮮やかに解決する・・・という「刑事コロンボ」シリーズ。主演のピーター・フォークは片目が義眼の、もともとはチンピラ役が多かった俳優である。

 

 まず犯人測からうまく成し遂げた犯罪(多くは殺人)を描き、第二章からコロンボ警部が登場する。犯人役は、主演ができる立派な俳優・女優ばかり。最初は「この刑事、とんちんかんなことばかりしている」と憐れむ犯人なのだが、2時間のうちに立場が逆転してしまう。この落差は、本シリーズの魅力である。

 

 本書「ロンドンの傘」は、僕が見た中ではベスト3に入る傑作である。ロンドンの劇場で「マクベス」の舞台に賭ける俳優夫婦、劇中この夫婦は悪役のマクベス夫妻を演じることになっている。しかし開園前の日、楽屋を訪れた劇場の持ち主でパトロンのロジャー卿を、二人はいさかいの末に殺してしまう。

 

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 卿の死体を彼の自宅まで運び、就寝前にくつろいでいた時に階段から落ちて事故死したかのように見せかける。偽装は成功し、二人は疑われることなく「マクベス」の初日を演じて高い評価を受けるのだが・・・。

 

 この夫婦にとって運の悪いことに、ロサンゼルス市警とロンドン警視庁の間で交換研修があって、ロスからやってきていたのがコロンボ警部だった。スコットランド・ヤードで彼を受け入れてくれたダーク部長がロジャー卿の親戚だったことから、捜査にコロンボ警部がからんできてしまった。

 

 いつものようにダサい所業をくりかえすコロンボ警部だが、いつもと違うのは舞台がロンドンで英国貴族とその豪華な邸宅や、折り目正しい執事の前になっていること。紳士の国では、コロンボ警部の異邦人ぶりはとみに激しい。俳優夫婦を犯人とにらんだコロンボ警部だが、決め手には欠けている。かれが注目したのはロジャー卿の傘。ロンドンといえば雨、傘の出番は多くロジャー卿が劇場の楽屋を訪れた時も雨が降っていた。俳優夫婦は、ロジャー卿の傘の始末を誤ったのだ。この唯一のミスを、コロンボ警部が巧みな罠で突いてゆく。

 

 文字で読んだのは初めてでしたが、昔見た映像を思い出して懐かしかったです。「マクベス」などのシェークスピア劇になじみがないとわかりにくいこともあるのですが、それでも警部の異邦人ぶりを楽しめました。