本書は、先月「別室3号館の男」を紹介したコリン・デクスターのモース警部ものの1冊である。かの記事では英国人が「日本人もツウだな」と評したことを紹介しているが、日本での評判と英国での評価には乖離があるようだ。
本書の解説に、英国の雑誌<ミリオン>が英国推理作家協会の65名にアンケートを取った人気探偵ベスト15が載っている。
1位 モース主任警部
2位 シャーロック・ホームズ
3位 ピーター・ウィムジー卿
4位 フィリップ・マーロウ
5位 アルバート・キャンピオン
6位 ダルジール&パスコー
7位 エルキュール・ポワロ
8位 ネロ・ウルフ
9位 アダム・ダルグリッシュ
10位 ゴーテ警部 ・・・以下略
全く驚くべき結果で、アメリカ人はマーロウとウルフしか入っていないのは仕方ないとして、ポアロはもちろんピーター卿やホームズを抑えてモース警部が首位なのだ。本書ではそのモース主任警部が、「時の娘」ばりに130年前の事件に挑む。
独り者のモース警部は、長年の酒・タバコ・不摂生がたたって血を吐いて倒れる。担ぎ込まれた病院で「胃潰瘍」と診断されるが、入院中同じ病室で亡くなった歴史家の遺稿「オックスフォード運河の殺人」を読んで、ベッドデテクティブを始める。
1859年当時、郊外からロンドンへの重要な輸送路だったオックスフォード運河で38歳の女ジョアンナが死体となって浮いていた。彼女は貨客船「バーバラ・ブレイ号」の先客として運河を下ってきたのだが、ある日行方不明になったのだ。容疑は船の船長・船員4名にかかり、裁判の結果2人が死刑、1人がオーストラリアに「遠島」になる。
ジョアンナの最初の夫だった奇術師の死から二人目の夫のロンドンでの生活、夫のもとに向かうジョアンナの周りでおきた小さな事件・・・これらを読み込んでモースは船員たちは冤罪だと感じる。徐々に回復したモースは、最初は見舞いに来た部下の刑事や知り合った図書館員の娘に過去の情報収集を任せ、退院するとみずから運河からアイルランドまで足を延ばして真実を追求する。
何度か英国推理協会賞のシルバーダガー賞を取っていた作者だが、本書でゴールドダガー賞を手にした。それにふさわしい重厚なタッチの捜査と意外な真実を盛り込んだ力作でした。作者の日本での評価、もっと上がるべきだと改めて思いました。