新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

初期のポラロイドカメラ

 本書は「刑事コロンボ」全60余話の中でも、ベスト10級の名作と言われる作品。主人公(犯人のこと)が高名なカメラマンであったことと、表紙の絵にある古いポラロイドカメラが重要な役割を果たしていることから、僕の印象に残った作品でもある。

 

 放映は1975年だが、ノーベライゼーションされたのは1994年。そのため事件の背景やカメラのメカニズムなどに、1970年代の色が残っている。1975年には僕は大学生になったばかり、愛用のNikomatFTNを抱えて写真を撮りまくっていたころだ。

 

 ベトナム戦争の報道写真などで二度も「ピュリッツアー賞」を受けた写真家ポールは、若くして結婚した年上女房フランシスに手を焼いていた。若く美しい助手ローナの登場もあって、なんとか離婚したいのだが秘密を握られていてそうもいかない。

 

 ポールはかつては報道・ドキュメンタリー写真家として名をはせたのだが、今は有名人やお金持ちのポートレートを撮ることで収入の大半を得ている。もう一度屋外で思い切り写真を撮りたいという心に逆らえず、「挑戦」に邪魔な妻フランシスの殺害計画を立て始める。

 

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 刑務所でのドキュメンタリー写真を撮ったことのある服役囚アルが出所することから、彼を巻き込んで妻の偽装誘拐事件を起こし妻を殺害、誘拐犯としてアルも射殺し全てを葬ろうとする。緻密な計画は、アルを殺した直後にアル中の浮浪者と遭遇することで狂い始めた。

 

 例によって「上級市民」である写真家ポールや出版社社長などのところに、浮浪者同然の姿で現れるのがコロンボ警部。今回は特にひどく描写されていて、目撃者の浮浪者を探しに救済食堂へ出かけると・・・

 

 「初めてですね。歓迎します。遠慮なさらずに・・・ひどいコートね。昨日寄付があったコートを探してきてあげますわ」

 

 とシスターにもてなされてしまう。バッジを見せて身分を明かしてからも、

 

 「まあ、さすがにプロですわね。浮浪者そっくりに変装しての捜査ですか?」

 

 と褒められる始末である。一方ポールからは、カメラの使い方や選択(ストロボ付きのコンパクト:ピッカリコニカかな?)を薦められる。ポールがアリバイ造りに使ったポラロイドカメラは、なんとネガが残るというもの。初期のポラロイドはそうだったと本書にある。

 

 映像は忘れてしまったのですが、写真のことも含めて懐かしく読み終わりました。残されたコロンボ物はほんの数冊です。