ロス・アンジェルス市警のコロンボ警部、殺人課所属だから殺人犯人を捜すのは当たり前のこと。しかしいつも彼は「捜し」てはいない。多くの事件で現場にあのボロ車(プジョーらしい)で現れた時は、すでに犯人の目星がついているように見える。まあ読者/視聴者は、ドラマの最初に登場する犯人を知り犯行を目撃しているのだから、そう思ってしまうのだが。
ところが大変珍しいことに、本書ではコロンボ警部と部下のクレーマー刑事、マック刑事は、「誰が殺したのか」真剣に議論することになる。シリーズの中で、ほぼ唯一「本格ミステリー」となったのが本書である。
引退した海軍のスワンソン提督は、海が大好き。ヨットを自分で作り操り、頭を整理したくなると真夜中に一人でヨットで海に出る。造船所のオーナーでありヨットのビジネスをする会社を持っているが、社長職は娘ジョアンナの夫チャールズに譲っても実験は握ったまま。造船所長のテイラーとは長い付き合いだ。
今日は会社のお客様を招いてのパーティ、チャールズが仕切っているのだがジョアンナは酒浸り、遊び人の甥スワニーも老提督のお金を頼ってやってきてピアノを弾いている。しかし和やかなパーティの裏側では、顧問弁護士のケタリングにも知らされないまま提督が会社を売りに出し、ジョアンナを相続人としていた遺言書の書き換えを進めていた。
深夜オフィスでは、提督が撲殺されていた。現場にはジョアンナの口紅やブローチが散乱している。チャールズは現場を偽装し、自ら提督に成りすましてヨットで海に出て提督の死体を捨てる。提督の行方不明事件になぜか殺人課のチームが投入されて、コロンボ警部はいつものように目星をつけたチャールズにまとわりつく。
チャールズは偽装工作を暴かれ徐々に追いつめられるのだが、ここから読者は翻弄されることになる。チャールズ自身が「真犯人」に射殺されてしまったのだ。物語は突然「本格ミステリー」に転化する。
「やればできるじゃん」というのが正直な思いである。最後に、上記の容疑者たちを一堂に集めてコロンボ警部の「謎解き」が始まる。小道具としてのアナグラムも出てくるし、懐中時計のトリックもあって「ケレン味たっぷり」のコロンボ警部を味わうこともできる。作者はいつものW.リンク&R.レビンソンなのだが、作者たちが本格ミステリーに挑戦したことに拍手を送りたいです。