新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

それは夢だったのか、終わったのか?

 僕の周りにいる仲間たちは、多かれ少なかれ「Global & Digital」の流れを当たり前だと思っている。その人たちから見ると「America First」と叫んで国境に物理的な壁を作る政策や、英国の「Brexit」行動は理解できない。サイバー空間には、国境などありえないのだから。

 

 しかし「Global & Digital」への反発が強いのも事実で、それを理解するために何冊か本を買い込んできた。本書(2016年発表)もそのひとつ。仏国の文化人類学エマニュエル・トッド氏に朝日新聞記者がインタビューしてまとめたもので、トッド氏の1998~2016年の間に主張したことが収められている。この間の世界の状況をトッド氏は以下のように指摘する。

 

・1998~2016年に、グロバリゼーションが国境を越える夢がピークに達し墜落した。

・1998年は情報革命の時代、世界は小さくなりソ連は崩壊した。

・2016年までに、インターネット人口は10倍になった。

・今米国は「グローバル疲れ」の状況、これがトランプ台頭を生んだ。

・欧州は解体の危機にあり、各国は出生率低下と移民問題で行き詰った。

・中国は欧州の停滞に脅かされて成長率が鈍化、人為的な開発モデルが頓挫した。

 

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 米国は2016年に至っても「リーマンショック」から抜け出せていないと、トッド氏は答えている。自由貿易と経済合理性の負の面が表れ、中間層の没落がひどい。これは発展途上国の労働力を競争させられているからで、高給を食むエリートたちは本来「公益」を追求すべきなのに「私益」争奪に明け暮れている・・・と。

 

 結局「Global & Digital」を追求してきた米国型の夢は、夢のまま雲散霧消したのだというのが主張ポイントである。人口学の立場から「女性の識字率が上がると、出生率が下がる。教育の普及は女性の自立と人口減少を招く」と指摘していて、日米欧から中国までこの状況にあり、移民問題などが顕在化するのだという。

 

 特に欧州(ドイツやフランス)に厳しい論調ですが、米国特にその金融界こそが「諸悪の源泉」と手厳しい。サイバー空間の記述はほとんどなかったのですが、僕らの主張とは対極にあるような話でした。僕は「まだ夢をあきらめていません」と、もしトッド先生に会えたら申しあげたいですね。