新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

中国、その壮大な戦いの場

 このところ柘植久慶の「逆撃:三国志シリーズ」を2作紹介したこともあって、本書を読み返してみた。古今の戦争・戦史に詳しい作者だが、三国志のころは「中国史のなかで最も魅力あふれる時代」(まえがき)と評している。三国志といえばキラ星のように登場する武将・軍師の世界、確かホビージャパンに「三国志演義」というボードゲームがあり何度かプレイした。印象としては「武将・軍師のごった煮」のようなもので、地方軍閥役のプレーヤーのもとに、無作為に彼らが仕官を求めてくるのだ。諸葛亮のコマが手に入ったりすると、プレーヤーは勝ったも同然と狂喜したものである。

 

 どうしても武将・軍師に偏った評価がされがちなのが、三国志の世界。それを本書は純粋軍事的に合戦部分を切り取って解説したものだ。合戦は黄巾の乱(184年)から呉の滅亡(280年)までの、およそ1世紀にわたる39が取り上げられている。後漢末期、宮廷が外戚と宦官の腐敗から機能しなくなり、道教の一派「太平道」が50万人ともいう規模の農民蜂起で滅亡に追い込まれた。その過程で地方豪族が武装集団として頭角を現し、栄枯盛衰を繰り返したわけだ。

 

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 39の合戦は非常にバリエーションに富んだもので、20~30万の大軍が激突したものもあれば、わずか100人の奇襲部隊が多大の戦果を挙げたものもある。合戦の場所も、多くは漢中なのだが、華北から雲南、西域に至るまで広大に広がっている。地方豪族とはいえエリアを支配することなどできず、拠点(城とその周辺)を治め通商路を確保するだけで精一杯だった。

 

 遠征をするにしても補給線を確保するのが非常に大変、だから関(虎牢関、陽平関など)が決戦の場になったりする。騎兵1人にかかる費用は歩兵10人分だと本書にあって、騎兵は長躯攻撃が可能な機動戦力で偵察にも貴重だが、その維持には財政安定が必須だとわかる。輜重兵も牛馬が使えなければ、輸送量は制限される。

 

 合戦の多くで、奇襲や裏切りが結果を左右する。豪族一族間でも、兄弟同士でも反目はあって、それを隣の勢力に付け込まれたりする。今自分がやるべきことは何か、優先順位をつけリスクをとって非情に決断する。乱世の政治家・為政者は、50%の勇気と50%の慎重さが必要だと本書にある。

 

 無能な国主ゆえ滅びた「蜀」、長く平和だったゆえあっけなく倒れた「呉」を見て、乱世の生き方を学ぶべきだと感じました。