新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

真夏のサスペンス、1985

 ウィリアム・カッツという作者のことは、本書(1985年発表)を手にとるまで知らなかった。。解説によると、CIA局員だったり未来学者の助手をしていた経歴があるという。何作か邦訳されているが、主としてサスペンスものの巧手としての評価が高い。本書も、真夏のマンハッタンでの連族殺人事件に挑む警察の捜査が描かれる。

 

 1980年代のマンハッタン、ミステリーの世界ではお馴染みのところだが、僕自身は2015年ころに訪れたのが最初。エラリー・クイーンの住んでいた西87番街も、ブロードウェイも知らずに帰ってきた。本書の舞台は真夏のマンハッタンである。以前キース・ピータースンの「夏の稲妻」を紹介しているが、まとわりつくような暑さは特別だという。本書ではその中で独身女性ばかりを狙う連続殺人鬼の事件に、ニューヨーク市警20分署のカーロフ警部補が挑む。

 

 カーロフ警部補はスラブ系、1930年代にソ連共産党を嫌って米国に亡命してきた両親のもとに生まれた。民族のごった煮のニューヨークで、真摯な姿勢で平警官からたたき上げた刑事である。

 

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 独身の若い女性が一人暮らしのアパートであまり抵抗した形跡を残さず心臓を一突きで殺される事件が、マンハッタンで多発することから物語が始まる。本来見知らぬ相手を部屋に入れることなどない独身女性たちが、油断をする相手は何者か?隣室の住人が聞いた、事件後と思われる掃除機の音の意味は何なのか?そして犯人が必ず被害者の側に残す、紙粘土作りのミニチュアのゴンドラは何を示しているのか?謎は深まるばかりだ。

 

 読者は冒頭から連続殺人犯の犯行を目撃させられる。その手口は、家電メーカー(ゼニスって懐かしい)のサービスマンを騙って「部品回収」を言い訳に入り込むのだが、その正体や動機は分からないまま。あっという間に5名の女性が殺害される中、ウェストサイドに住む美女ローラは、引っ越しを考えて不動産会社に連絡し売却の広告を出すことにする。彼女を連続殺人犯が狙っていることも知らずに・・・。

 

 ある意味軽いタッチのサスペンス・犯罪捜査者ものでした。解説に言う「サスペンスにかけては第一級の作家」というのは持ち上げ過ぎにしても、なかなか重厚な作品でした。犯人とカーロフ警部補の心理戦も読みごたえがあります。ただこの作者の作品、他には見ていません。探してみることにしましょう。