新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

三世保安官マット・ゲイブリエル

 1992年発表の本書は、ポーラ・ゴズリングの「ストライカー警部補&ケイトもの」の第三作。「モンキー・パズル」の事件で知り合った剛腕警部補ジャック・ストライカーと気の強い大学教授ケイト・トレボーンは、「殺意のバックラッシュ」事件で緊密な仲となり恋人というよりは夫婦に近い暮らしをしているが、ケイトがジャックの警察稼業を嫌って結婚に踏み切れていない。

 

 ケイトはジャックを説得、2週間の休暇を取らせて二人でケイトの故郷オハイオ州ブラックウォーターの街にやってきた。南にエリー湖に面した湾を持つこの街、湾の奥は腐臭ただよう<泥沼>だ。街は1800年代にピーコックという富豪が沼の一部を浚渫して水路を通し、堤防も作って快適に住めるようにした土地で発展した。浚渫ででた土砂は堤防の外側に積み上げられ<パラダイス島>というクローズドなエリアを作った。

 島には10軒の小桟橋のついた屋敷があり、かつてはピーコックとその仲間たちしか住めなかった。何代にもわたってその伝統は受け継がれてきたが、近年そのうちの3軒は「新参者」に所有されている。ピーコック邸を買い取ったのは新興富豪のウィルバフォース家、厳重に警備された邸に改造し警備員や犬まで配備している。

 

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 ブラックウォーターの街の保安官マット・ゲイブリエルは祖父・父も保安官だった。まだ就任三年目で重大事件の経験はない。マットの同級生だった女性2人が、このシーズン街に帰ってきた。ひとりは殺人課の警部補を連れたケイト、もう一人は絵画でブレイクしながら夫のDVから逃れてきたダリア。

 

 ダリアは故郷でも夫が追いかけてくると錯乱状態、ところが夫が<パラダイス島>でショットガンで撃たれて死んでいた。ダリアが身を寄せる伯母は、誰かが来ると「あたしのショットガンを持ってきて」という口癖があり、ダリアが容疑者になってしまう。ケイトの頼みで共同戦線を張るジャックとマットだが、島の買収問題や不動産詐欺などの複雑な事件背景に悩まされる。

 

 ずっとシリーズものを書かなかった作者が、ジャック&ケイトで第三作を書いたのだが、実は本書が「真面目だがやや頼りない保安官」マットのデビュー作品。このあとブッラクウォーターものが2作続くことになります。なんとなく警察ものの連続TVドラマのような様相を呈してきた作者の作品、まだ探しますよ。