新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ディーン先生得意の大団円

 昨年レオ・ブルースの「死の扉」を紹介したが、これがデビュー作になるキャロラス・ディーンは、とても名探偵らしい名探偵だと思った。ニューミンスターのパブリックスクールで歴史教師を務める40歳の独身男、歴史探偵とも呼ばれ歴史書から当時の事件の真相を暴く論文も発表している。実社会でも殺人事件に首を突っ込むので、ゴリンジャー校長はいつも渋い顔をしている。

 

 ところが本書(1958年発表)では、ディーンは校長室に呼ばれ、

 

・友人のペイジ卿のところに、殺すぞとの脅迫状が届いた。

・警察は本腰が入らず、彼のところに行って守ってやってくれ。

 

 と校長から依頼される。「僕はボディガードじゃありません。殺人事件の犯人さがしならやります」とディーンは拒否するが、そこに卿から電話が入り、

 

 「私のコートを着て屋敷内を歩いていた秘書が射殺された。助けてほしい」

 

 と言ってきた。やむなくディーンは、サセックス州のハイランド屋敷に赴くことになる。この屋敷、数多くの使用人までが暮らす巨大で豪華なもの。独身だった被害者の秘書の男性にも、専属の家政婦がいるくらいお金がかかっている。第一次世界大戦前は英国のところどころにあった貴族の屋敷だが、維持費がかさむので急激に数を減らしている。ここはレディ・ペイジが相続したものだが、夫は食品加工流通の大手を経営している富豪である。夫の資金が潤沢なので維持できているわけだ。

 

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 秘書はペイジ卿と話し合った後、広大な庭を歩いているうちに、自ら持っていた30-30口径のライフルで2発撃たれて死んだ。ライフルは鍵もかけずに自宅に置いてあったもの。誰でも持ち出すことはできた。現地警察にうとまれながらも、ディーンは卿の夫人・2人の息子・娘・執事・女中頭・下僕・運転手(一昔前なら馬丁)・家政婦らから聴取を続け、一つの仮説を練り上げる。

 

 本格ミステリーの3要素(by江戸川乱歩)は、冒頭の不可思議性・中段のサスペンス・結末の意外性である。ディーンものには前2要素はあまりない。加えてもうひとりのレギュラービーフ巡査部長ものにあるユーモアも希薄だ。しかし結末の意外性、特に関係者を一堂に集めてディーンが謎解きする大団円はすばらしい。

 

 本書もその特徴を十二分に活かした作品でした。面白かったのですが作者の作品はもう本棚に残っていません。もちろん探しますけどね・・・。