ジョン・スラデックは米国の作家、SFやミステリー・ノンフィクションも書いたが、いずれもパロディ色の強いものだという。面白いのはSF長編に1983年発表の「Tik Tok」という作品があること。今、米中間で問題になっているサービスとの関係は不明だ。
ミステリーとしては、本書(1977年発表)をはじめ米国人素人探偵サッカレイ・フィンが活躍する長編を5編ばかり残した。これに先立ち1972年に発表した短編「見えざる手によって」は、ミステリ・コンテストで優勝した作品である。これらの作品についての評価は、特に本格マニアの間で非常に高い。本書の解説は「本格の鬼」ともいえる鮎川哲也。
・犯人の隠し方
・叙述のフェアさ
・伏線とミスディレクション
のいずれもが満点の鬼才だと持ち上げている。密室殺人が出てくるのだが、そのトリックなどは奇術師クレイトン・ロースン並みで、長編テクニックとしてはロースンよりずっとうまいという。
舞台は英国、35年前の第二次世界大戦中に結成された<素人探偵7人会>、富豪の婦人・准男爵・化学者・軍人・弁護士・警官・画家だったのだが、今(1975年ころだろう)皆高齢となり、准男爵は死亡したと言われている。
その中で軍人だったストークス老人はロンドンのアパートで独り暮らしだが、愛猫を殺されたり陶器を割られたり嫌がらせを受けていた。どうも「グリーン」という者のハラスメントのようだ。ある日彼はトイレの中で息絶えていた。小さな換気口以外は完全な密室、基礎疾患のある老人だったが何が彼を殺したのかは不明だ。<7人会>のひとりフエアロウ婦人は、他の6人の周辺にも「グリーン」の影がちらつくとして、米国はフィンらを呼び出す。
地元警察が手をこまねく中、フィンは<7人会>の子供や甥・姪らにも事情聴取をするのだが、元警官のダンビ氏も、フェアロウ婦人も殺されてしまった。フィンは残り30ページになって関係者を一堂に集め、事件を解決しようとする。
手法は古い本格ミステリー、パロディの匂いも多い。しかし解説に言うようにトリックや手がかりはかなり秀逸な出来である。ひょっとすると高校・大学生時代に読んだら狂喜していたのではないかと思う。僕自身が変わったのだろうし、この辺りが「本格」の限界なのかもしれない。どうしても「造り物」の印象をぬぐえませんでした。面白かったのは確かだけれど・・・。