新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

意外な名探偵たち

 小林泰三は世代としては「新本格世代の関西人」である。だから作風はというと、ミステリーではなくホラーやSFが主体。しかし本書は、作者がミステリーに(楽しみながら)挑戦した短編集である。ただユーモアSF等でミステリー風の作品は多々あり、ミステリー作品がないのがミステリーだとマニアは思っていたらしい。

 

 題名に「密室」とあったので例によってBook-offで買ってきたのだが、読み始めて面白いなと思う反面、やっぱりミステリーではないなとも感じた。普通本格ミステリーでは意外な犯人・動機・手口などが暴かれるのだが、本書の短編たちの特徴は「意外な名探偵たち」にある。それは7編を読み終えた後に、解説との間に「小林泰三ワールドの名探偵たち」という一節があることでもわかる。

 

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 いかにもというシチュエーションで、犯罪に対して探偵役らしき人物が出てきたとしてもその人物が探偵役を全うすることは少ない。大団円で思わぬ探偵役が登場して事件を解決するわけだ。ざっと紹介すると、

 

・刑事たちを差し置いて、近所の老人が真相を暴く

・コンビニのアルバイト女性が突然事件の(これも)意外な犯人を指摘する

・大学を追われた元教授が「名探偵ソフト」を起動するが推理中に止まってしまい

 

 などという事件があるのだが、シチュエーション自身も半端ではない。

 

・被害者は150万年前の地層から発見されたホモサピエンス

・犯人以外の登場人物は決して嘘をつかないという前提条件

・被害者の記憶を植え付けられた人物が「自分を殺した相手」を探す

 

 最初の作品「大きな森の小さな密室」は、本格的な密室ミステリーだし「読者への挑戦」も付いているのだが、読み進むにつれ倒叙もの・安楽椅子ものなどを経由して、SF・ホラーものの傾向を増していく。

 

 作者は才人だと思うしミステリーとして唸らせられる部分もあるのだが、なんとなっく「悪ふざけ」っぽい印象も持った。まあ、ミステリーは「稚気の文学」だから非難はしませんけどね。この作者の作品、今後も探してくるかどうかは微妙ですね。