本書は、先月ご紹介したイーヴリン・E・スミスの「ミス・メルヴィルもの」の第二作。名家に育ちスポーツに芸術に子供のころから親しんでいたミス・メルヴィルは、家が没落したことによって世間の荒波に放り込まれた。育ちのいい彼女には適当な収入をもたらす仕事が見つからない。
仕方なくパーティもぐりのような微罪で食いつないできたのだが、ふとしたことで射撃の腕を買われて殺し屋になる。報酬は、好きで書いている絵画を殺し屋の元締めに買ってもらうことで合法化していた。ところが本書の段階では、元締めが買ってくれていた絵画の値段が市場で定まり、画家として生活できるようになっていた。
元締めがいなくなったこともあり、今は殺し屋仲間のアレックスを「弟」ということにして、普通の生活に戻っている。加えて人類学者のピーターという恋人までできている。ただお人よしの彼女には、絵の値段を吊り上げたり自分の価値をプロモーションする才覚はなく、赤毛のジルというエージェントを雇っている。
本書の前半は、画廊や美術館のイベントにおっとりしたミス・メルヴィルとすばしっこくて喧嘩っ早いジルがコンビで出掛けるデコボコぶりが面白い。ただそのイベントでミス・メルヴィルの後にスピーチをした画家が急死する。死因は深酒した上にヘロイン(コカインよりずっと強い)を注射したことによるもの。
これは事件性はないとされたものの、今度は画廊の主人があやしげな地下室で殺される。10年前にもジルや被害者たちが関わった画家が不審死していて、麻薬の密輸も絡んでくる。ミス・メルヴィルは期せずして、殺し屋転じて素人探偵に役をすることになる。
登場人物の多くがスペイン系で、言葉や習慣の違いを面白そうに書いてあるのだが日本人にはあまり分からない。ただ画家の作品である絵画の価値を市場でどう高めるかの手段については勉強させられることが多い。死んだ画家はもう描けないので、作品の値が上がるのは事実である。
デビュー作で、育ちのいい中年女性の殺し屋という面白キャラに惹かれたのですが、第二作で普通の中年女性探偵になってしまいました。ちょっと期待外れでしたね。