新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

発禁となったバイオレンス小説

 1938年、本書が発表されると英国ミステリー界は騒然となった。作者ハドリー・チェイスは本書がデビュー作、この後多くのバイオレンス・犯罪小説を世に送る。米国のギャングなど無法者ばかりが登場する小説が、ついに大英帝国でも発表されたのだ。しかも本家米国のハードボイルド小説を凌駕するサディスティックな内容だったから、初版本は発禁とされてしまった。創元社の邦訳は、後に過激な部分を書き改めて出版されたものを翻訳している。

 

 牛肉王ブランディッシの娘が、婚約者と帰宅途中で追いはぎに遭う。ライリーというチンピラを頭にした4人組で、高価な首飾りを奪ったまでは良かったが、誤って婚約者の男を殺してしまう。娘を解放すれば身元がバレると、ライリーは娘を誘拐して身代金を獲る作戦に切り替える。一味の女アンナを帰し男3人で逃走を始めるのだが、ギャング団の殺し屋に捕まってしまう。

 

        

 

 グリッソンのお袋という頭目が率いるギャング団はライリーたちを始末した後、ライリーたちの仕業に見せかけて身代金をせしめる。お袋の息子スリムは、生まれついての殺し屋で、ただ楽しみのためだけに多くの命を奪ってきた。ライリーも残酷な殺され方をする。

 

 身代金が手に入って娘は不要になった。元々生きて返すつもりなどないお袋が彼女を始末しようとすると、スリムが「それならお前を殺す」と言う。清楚で絶世の美女であるミス・ブランディッシに、スリムは惚れてしまったのだ。スリムを拒む娘だが、スリムは麻薬漬けにして自分のものにし、4か月が過ぎた。警察の捜査に不満を持つ牛肉王は、タフな探偵フェナーを雇って娘の行方を探させることにした。

 

 初版本では、性的不能者のスリムが娘をナイフでレイプしたり、ライリーがマゾでナイフで刺されて絶頂感を得るなどのシーンがあったようです。高校生の時に読んで、ちょっとドキドキした記憶があります。50年ぶりの再会でした。