本書は2015年にノルウェーで発表された犯罪小説、作者のジョー・ネスボもオスロ在住のサスペンス作家だ。作者は2000年代から、児童向けの<Dr.プロクターもの>や一般向けの<刑事ハリー・ホーレもの>を書いている。
本書の舞台は1977年クリスマス前のオスロ、<おれ>ことオーラヴ・ヨハンセンは麻薬業者ホフマンに雇われている殺し屋。DVのひどい父親と弱気な母親のもとで育ち、刑務所から戻ってきて母親を痛めつける父親を殺したのが、最初の殺人。以後強盗もポン引きもやってみたが、どれも上手くいかない。ある種の発達障害で、算数が出来ず文章も苦手だ。しかし殺しだけは手際よくやれることから、ホフマンは商売上の「問題」を消すのにオーラヴを使っている。
すでに母親も亡くしたオーラヴは、ろうあ者で脚も悪い売春婦のマリア以外には親しい人もいない。以前殺した男の未亡人に匿名で仕送りをする優しい面もあって、郊外のアパートで一人暮らし。仕事の時だけ、市街に出ていく。
今回のホフマンの依頼は、ホフマン自身の若く美しい後妻コリナを事故に見せかけて殺すこと。いつものようにホフマンは理由を言わない。身内を殺してくれとの依頼に戸惑うオーラヴは、まずホフマン家を見張ることのできる部屋を借り監視を始めた。
するともう陽が落ちた午後3時ごろに、ホフマン帰宅前に毎日やってくる若い男がいることが分かる。男はコリナに暴力を振るい、ベッドを共にして去っていく。オーラヴはその男を尾行し、事情を探ろうとするのだが・・・。
200ページにも満たない中編のような作品で、凍えるようでかつ昼間のとても短いオスロのクリスマス前の世情が簡潔につづられている。ホフマンと対峙する組織のボス<漁師>がヘロインを北極海経由で仕入れ売りさばくさまや、オーラヴたち殺し屋がいかにてぎわよく「始末」をするかはとても生々しい。
解説には「パルプ・ノワール」と「クリスマス・ストーリー」を融合させた傑作とあるが、クリスチャンではない僕には感じにくいことも多かったようだ。ただ暗い北欧の冬、そこで行われる犯罪者たちの生活、裏切り・疑惑・色欲・金欲の絡み合いはなかなか面白かった。でも、冬のオスロには行きたいと思いませんね。本書に登場する料理も、決して美味しそうではありませんし。