新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

北朝鮮を理解する基礎

 1950年6月、金日成北朝鮮軍は38度線を越えて「南朝鮮」に侵攻、瞬く間にソウルを陥とし釜山近くまで進撃する。その後米軍中心の国連軍が仁川に上陸作戦を敢行、逆に平壌を陥とし鴨緑江まで攻め上るが中国軍の介入で後退、結局38度線で停戦することになる。ソウルの戦争記念館を訪問して、毛沢東が「自国内の不満分子を半島に捨てに行ったのだ」との仮説を、記事にしたことがある。

 

https://nicky-akira.hatenadiary.com/entry/2019/08/30/150000

 

 1993年発表の本書は、開戦以前に米軍の陰謀があったとする説を、米国国立公文書館に残る160万ページもの資料を読み解いて主張したものである。筆者は元赤旗の記者、米軍が反撃に転じて平壌を陥落させる間に得た膨大な資料が米国で情報公開されていることを知り、2年7ヵ月をかけてこの調査を行っている。

 

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 まだ20歳代だった朝鮮系のソ連軍大尉を、ソ連がいかにして「抗日の英雄:金日成」とすり替えたかを始め、ソ連北朝鮮から穀物などを奪って飢餓が発生させたこと、市民の間のスパイを放ち監視国家に仕上げたことなどが明示される。

 

 朝鮮戦争自体も、どちらが先に銃を撃ったかはかつては論争があって、北朝鮮では今でも「南朝鮮の北侵」と言われているようだが、本書は明確に金日成が武力で民族統一を図ろうとしたことを示している。面白かったのは侵攻の主役となった8個師団(約10,000人/師団)のうち主力となった3個師団は、毛沢東からの借り物だったということ。その編成やいつどこへ展開して、どう進撃したかまでわかっている。

 

 その資料によると、意外に戦車部隊は少なく1個師団だけ。歩兵師団にも「近衛師団」たる第六師団に戦車大隊の記載があるだけ。あとの師団には反戦車大隊との記載があるが、これは多分対戦車砲大隊なのだろう。戦車・自走砲・対戦車砲などはほぼソ連製だったと思われる。

 

 ダレス国務長官マッカーサー司令官は、北朝鮮が南侵をすることを知っていながら韓国軍らには知らせず、日本などから迅速に米軍を送る算段をしていたと本書にある。若く経験薄い金日成は、その罠にはまったのだということ。ソ連の傀儡国家として生まれ、本家が「民主化」したのちも朝鮮労働党支配の続く国北朝鮮、かの国を理解する基礎は本書にあるように思います。