新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ドーバー海峡を越えていたら

 僕がシミュレーション・ウォーゲームを好きなのは、そしてSFゲームやファンタジーゲームを好まないのは、歴史のIF「あの時こうしていたら・・・」を自分の手でやってみることができるからだ。例えば、アリューシャンのような支作戦に「龍驤」「隼鷹」を割かずにミッドウェイ攻略に加えていたら・・・というような話。

 

 本書は第二次欧州大戦の初期、大陸をナチスドイツが支配しソ連アメリカが中立だったので、ひとりイギリスだけがドイツに抵抗していたころの物語である。映画「ダンケルク」にもあったように、イギリスの大陸派遣軍はダンケルク付近から命からがら故国に逃げ帰ってきた。大砲や戦車などの重装備はもちろん、小銃や鉄兜まで大陸に残しての逃亡のようなものだった。

 

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 イギリス首相チャーチルは、正規軍のほかに予備役の招集などで「国防市民軍」47万人の編成を終えていたが、彼らに持たせるべき小銃は10万丁しかないありさまだった。したがってフランスを席巻したドイツ装甲師団が十分な兵站を伴って上陸してきたら、女王一家はスコットランドなりに逃れ、チャーチル自身はロンドン塔で絞首刑になることを覚悟せざるを得ない情勢だった。

 

 本書は1940年9月にドイツ軍がイギリス本土に上陸作戦を敢行したらというIFを、当時の両国の作戦計画に基づいた兵棋演習をした結果で書かれたものである。同年5月にフランスを降伏させたヒトラーは、イギリスもじきに講和に応じると考えていたらしい。上陸作戦は何度も決行される日を延期され、史実では実施されることはなかった。

 

 上陸したら無敵かもしれないドイツ軍だが、狭いとはいえ海峡をわたって兵員・装備・車両・兵站を送らなくてはならない。そこに航空戦力や海上戦力が襲ってきたらこれらは全て海の底に沈んでしまう。航空戦力ではやや優勢だったドイツ軍も、海上戦力となるとまともな海戦などできないほど脆弱だった。

 

 それでも航空優勢のもと空挺部隊が降り、Uボートらがイギリス海軍を遠ざけているうちに第一波が上陸を果たす。イギリス側は、ヒースフィールド・アシュフォード・カンタベリーを結ぶ線をウィンストンラインと名付けて防衛戦を展開するのだが・・・。

 

 シミュレーションの結果はともかく、昔ウォーゲームを夜を徹してやっていたころを思い出させる書だった。あのころ、エウロパシリーズという全欧州をカバーするマップ(6畳間では広げきれない)をにらんでいたよな・・・と懐かしかったです。