新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日米連合軍vs.全欧州軍

 「蒼海の尖兵」シリーズは、大鑑巨砲架空戦記作家横山信義の比較的初期の作品。本編7作のほか、何冊か外伝が出版されている。本書は2001年に出版された「外伝1」。どうしても太平洋を挟んで日米両艦隊が戦えば、日本に勝ち目がないのが分かり、作者は本シリーズで日米連合軍が活躍するシナリオを描いた。

 

 これなら、日本軍が苦労しながらも勝者に成れる可能性が出てくる。しかし戦艦が戦うシーンを書きたい作者は、強力な日米艦隊にとってのライバルをどう設定するか悩んだのだろう。答えは「全欧州軍」だった。

 

 歴史は1933年から歪み始める。ソ連満州に侵攻、日本軍は朝鮮半島に逼塞させられてしまう。さらにヒトラースターリンが手を結び、背後が安心になったドイツ軍はイタリアと共にフランスとイギリスを占領する。この時残存した大英帝国海軍が独伊艦隊と合流し、日米艦隊を相手取ることになる。

 

        

 

 米国艦隊は大西洋ににらみを利かし、太平洋からインド洋にかけては、日本艦隊を中心とした連合艦隊が任たることになる。また日本陸軍は、ソ連に痛い目に遭っていたこともあって、近代的な米軍兵器の導入を進めた。米軍も、日本の独創的な兵器を導入し、欧州軍に空と陸では対抗出来るようになった。

 

 本書には3つの短編と、中編「フッド撃沈指令」が収められている。日米の戦艦隊と撃ち合い、総員退避してしまった英国海軍の巡洋戦艦<フッド>を、米国艦隊が拿捕しようとし、ウルフパックがそれを防ぐために出撃する話だ。米軍のP38戦闘機を日本陸軍が採用するかどうか、テストする話も面白い。エジプトまで進撃した日本陸軍が、Tiger-Ⅰ戦車に苦戦する話もあった。いずれも、このシチュエーションだったらあり得たことで、戦艦の撃ち合い以外にも歴史のIFを味わうことができる。

 

 子供だましという人もいますが、息抜きにはいい物語ですよ。