本書は米国大手シンクタンクCSISの上級顧問である著者に、訳者の奥山真司がインタビューした10編の記事をまとめたもの。著者エドワード・ルトワックはルーマニア生まれのユダヤ人、イタリアで育ち英国に渡り軍属として英国籍を取得している。専門は軍事史、安全保障論の博士だが、現役時代は相当あらっぽいこともした人のようだ。
1999年に「Give War a Chance」という論文を書いて、自らの「Paradoxical Logic」を世に問うた。この考えは「近代西洋の戦略論に革命を起こした」とも言われる。その神髄を本書は、具体的な過去及び現在の軍事史や国際情勢を引いて説明している。
そもそも戦争とは何か、筆者は平和のための行動だという。戦争当事者が疲弊し平和を希求するようにならなければ、真の平和は来ないということ。国連などが介入して中途半端に紛争を収めれば、その分争いは長く続く。難民支援なども同じことで、難民キャンプなど作れば本来離れるべき土地に彼らが残り、紛争を続けさせる。彼がユダヤ人だからかもしれないが、パレスチナ難民キャンプなどその最たるものだという主張。
逆説的論理の典型例は、例えばロシアの扱いについて。現状では日米欧に中露で対抗してくるのだが、当時のオバマ政権がプーチンを個人的に非難するのをやめ、中国の脅威を同盟国とより共有したら、ロシアは中国包囲網に入ってくるかもしれないという。戦闘に強くいくら勝っても、戦略(つまり外交・同盟)で負けてはだめで、この戦略などバイデン政権が採るべき道だと僕も思う。戦略が優れた帝国として筆者はビザンチン帝国を挙げていて、その7カ条を紹介している。
1)戦争は可能な限り避けよ。
2)敵の情報を心理面含め収集せよ。
3)戦闘、とくに大規模なものはよほど有利でない限り避けよ。
4)機動(詭道)戦をむねとし、奇襲し素早く退け。
5)同盟国を得てバランスを崩し、戦争を早期に決着させよ。
6)政権転覆は勝利への最も安上がりな方法。
7)外交と政権転覆では不十分で戦争が必要でも、敵の弱点を突き消耗戦は避けよ。
中国については習大人が明日暗殺・投獄されてもおかしくない不安定な国だと指摘、外交下手が致命的だという。ただ尖閣諸島に限定しては「漁民の強襲上陸」をしてくる可能性があって要警戒だという。
一方のロシア、長期的視野で戦略を考える能力が高いが、軍事も経済も運営は下手な国民性だとある。拠って立つべきは広大な国土なので、それを割譲せよという北方領土交渉はハナから不可能だともある。冷徹な戦略眼、勉強になりましたね。