2017年発表の本書は、東京外国語大学教授の青山弘之氏(東アラブの政治・思想・歴史が専門)が、21世紀最大の人道危機と言われたシリア紛争を紹介したもの。日本ではこの地域のことを知ることができる書物は多くなく、今回はシリアという国について勉強させてもらった。
古来「文明の十字路」でもあったシリアの地、繁栄した過去を持っているが19世紀にはフランスの植民地になっていた。第二次世界大戦後独立を果たすが、南にイスラエルという国が出来、数次の中東戦争でイスラエルに完敗した。驚いたのはソ連が大戦中にすでにシリアと秘密協定を結び、地中海への足掛かりを得ていたこと。タルトゥースの港は今でも、地中海で唯一ロシア海軍艦艇が整備・補給を受けられるところだ。
1963年、バアス党のクーデターで政権を握ったのがハーフィズ・アサド。彼はシリア軍を強化し、安定した政権運営をした。彼が2000年に死去すると、次男のバッシャールが34歳の若さで大統領に就いた。普通選挙が行われて、90%近い得票率だった。しかし2011年から「アラブの春」と呼ばれる民主化運動が、各地で発生。シリアでの混乱はこの時に始まった。
今でもシリア紛争を「アサド独裁政権対民主化勢力」と思っている人もいるようだが、民主化の勢いはすぐに民族・宗教的な闘争と外国からの軍事勢力の介入によって覆い隠されてしまった。今は外国の思惑と、部族等の離合集散で複雑極まりない紛争が続いている。
そんな中で、アサド政権が反政府勢力に化学兵器を使った疑惑が浮上した。以前から人権問題や強力な兵器(白リン弾・ミサイル・クラスター爆弾等)使用などでシリアに圧力をかけていた「シリアの友」グループ(米英仏・トルコ・サウジ他)は、アサド政権を非難した。そこにロシアが助け舟を出し、すべての化学兵器を提出すれば米軍等がシリア攻撃をしないと約束させた。
本件に限らず、膨大な死傷者・難民を産みながらこの紛争が決着しない原因は、上記グループ(特に米国オバマ政権)の優柔不断さにある。介入も限定的で、アサド政権を崩壊させる気は全くない。後に本格介入したロシアは反政府勢力への攻撃は苛烈を極め、トルコのクルド人勢力への攻撃も強烈だった。
同じような人道危機がウクライナで起きていますが、シリアでできなかったことはウクライナでもできないでしょう。戦禍が長引くことは必定ですね。