新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

黒江家自身の事件

 深谷忠記の「壮&美緒シリーズ」は、2010年を過ぎたころから名探偵黒江壮の出番が減ってきた。全体で400ページほどあるのだが、50ページも出てきてくれない。これまで「壮の頭脳と勝部長刑事の足」で難事件を解決してきたのだが、その比重が「足」の方に移ってしまった。

 

 これは一つには「本格ミステリーはやはり短編」というわけで、「難事件が発生して読者が焦れてきたところで名探偵が登場、快刀乱麻を断って解決し拍手が消えないうちに去る」のでは400ページが持たないからだ。

 

 だからこのところの本シリーズは、勝部長刑事を中心に地方の警官たちが協力して解決を図る警察小説となっている。特に「トラベルミステリー」色の濃いシリーズなので殺人現場は日本中、本書の京都府警北出係長のようなご当地刑事さんが活躍する。

 

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 ただ「壮&美緒」を素人探偵として絡める工夫は必要で、このところ作者は「冒頭壮なり美緒(圧倒的に美緒が多い)が知り合いを地方に訪ね、その知り合いが事件に巻き込まれる」というシチュエーションを多用する。今回その任を担ったのが、壮の実弟黒江洋准教授である。黒江兄弟は山口県萩市出身。

 

◆壮 36歳、慶明大学理学部准教授(数学)

 長身ですらりとした美男子、全く愛想はなく無口。頭の中で高等数学や暗号解読をしているのが好き。時々「考える人」としてトランス状態になる。

 

◆洋 35歳、京都大学文学部准教授(イスラム歴史学

 中背でややがっしり、顎が四角く眉が太い。愛嬌もある好男子だが、イスラムのことになるとのめりこんで周囲が見えなくなるのは兄と同じ。

 

 今回は、洋が好きになった女性のことから物語が始まる。東京に住んでいて何度かデートしプロポーズもしたのだが、離婚歴や子供がいることを理由に返事してもらえなかった女性。ところがある日彼女が京都に来て青酸毒で死ぬという事件が起きる。

 

 彼女の死が自殺とも他殺とも分からないうちに、東京でメッキ会社の社長が青酸で毒殺されていたのが見つかり、そのびるの防犯カメラに彼女の映像が映っていた。

 

 本書の「名探偵壮の推理と事件の始末の仕方」は、結構かっこいいもの。シリーズ中でも指折りかもしれない。でもこのシリーズも残り1冊になってしまいました。「壮&美緒」Forever!