新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

三色の豚の貯金箱

 日本では紹介された作品が少ないシャーロット・アームストロングだが、1942年に劇作家から転身してミステリーを書き始め、30作ほどの長編を残した。彼女はミシガン州で1905年生まれたというから、二人のエラリー・クイーンと同い年である。

 

 本書は1969年に亡くなる2年前に発表された、晩年の作品である。ただ内容的には非常に若々しい冒険ストーリーで、「青春もの」と言ってもいいだろう。物語はロサンゼルスの空港、ギフトショップに勤める貧しい娘ジーンの前で、男が公衆電話をかけながら倒れた。ホノルルで刺され傷を押してロスに戻ったところで力尽きたらしい。

 

 この男、石油王フェアチャイルド家の当主から8年前に結婚していた女が生んだ娘の居所を探してくれと依頼されていた探偵だった。石油王には3人の息子がいて、某州の知事、高名な外科医と遊び人になっている。探偵は三男の遊び人ハリーの大学時代の友人で、最期の電話はハリーにあてたものだった。

 

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 探偵は娘の所在を掴んだものの、娘を誘拐しようとする悪人たちに刺され逃げてきたのだ。電話で娘の居所を伝えるのも危ないと考えた彼は、ギフトショップにあった豚の貯金箱にメモを残した。空港に駆け付けたハリーはジーンに「豚の貯金箱を全部買う」と申し出るが、それまでの間に3個(ピンク・緑・黄色)が売れてしまっていた。

 

 調べてみると緑のはアムステルダム、黄色のはダブリンへ向かうフライトに乗った家族が買っている。ハリーはむりやりジーンを連れて、その2つの家族を追う。1967年という時代を考えると、スケールの大きな冒険物語だ。日本のトラベルミステリーは、その頃はまだ夜行列車のアリバイを追っかけまわしていた。

 

 貯金箱の中のメモは、それを壊さないと取り出せない。苦労して居所を突き止めた2家族だが、子供たちは「代わりのものをあげる」といっても首を縦に振らない。期せずして、ハリーとジーンは悪漢たちの追跡を振り切りながら、子供相手にあの手この手の奪回作戦を演じることになる。そしてピンクの豚の行方は・・・。

 

 作者のミステリーを読んだのは初めてですが、読みやすい文体とスピーディなストーリー展開は手練のものでした。30作ほどの長編のうち数作しか翻訳されていないのが残念ですね。