新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ヒンドゥークシの嵐

 本書(2010年発表)は、元米国国家航空警備隊の機関士でアフガニスタンなどでC-5やC-130輸送機に乗り込んだ経験の長いトマス・W・ヤングがノンフィクション「The Speed of Heat」(これもアフガニスタンが舞台)に続いて発表した軍事スリラーである。飛行機乗り出身の作家と言えばデイル・ブラウンなどを思い出すが、彼らの戦闘はほとんどが空の上。本書で作者の分身となって活躍する航空士パースン少佐の戦場は、荒れ狂う嵐の中のヒンドゥークシ山脈の地表だ。

 

 ソ連軍後退のあとも戦火の続くアフガニスタン、「テロとの戦い」で米軍がやってきたのだがアフガニスタン政府軍・反政府軍を交えての泥沼戦闘は続いている。重要な捕虜を一人輸送せよと言われて飛び立ったパースンたちの乗機は、反政府軍のミサイルで致命傷を負い不時着する。

 

 折から100年に一度の凍える嵐が吹きすさび、反政府軍勢力が捕虜奪還に迫る中、両足を骨折した機長はパースンに「通訳の女軍曹と2人で捕虜を連れ徒歩で脱出せよ」と命令する。その捕虜とはイスラム教の高位聖職者(原題のMullah)で、米国本土に対して核攻撃を仕掛けるキーになる人物らしい。

  

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  陸軍のゴールド軍曹はパシュトゥン語が話せる。70歳代と思われるMulllahを急き立てながら暴風雪の中を3人は逃げ延びようとする。しかし追ってきたのは、輸送機の機長以下全員を惨殺した男マルワン。元パキスタン軍のエリートで英国留学で完全なキングズ・イングリッシュを話す。冷酷な指揮官であり凄腕のスナイパーという敵だ。

 

 いったんマルワンに捕まり捕虜を奪還されてしまった2人だが、米軍特殊部隊キャントレル大尉とアフガニスタン政府軍ナジブ大尉の部隊に救出される。嵐をついてようやく補給物資を空輸してもらった彼らは「Mullahを生け捕りにせよ」との命を受ける。歩兵ではないパースンも、補給物資の中から慣れ親しんだM-40(M-700の軍用)を取り出して追跡行に加わった。

 

 アフガニスタンを東西に貫く山脈は、高いところでは7,000m以上の標高。そこに嵐が来るので、自然環境は極限ともいえる。ラストの古代の要塞に籠るマルワン部隊に、キャントレル大尉らが挑むシーンはなかなかの迫力である。この作家他に邦訳は見あたりませんが、探すだけでも探してみましょう。