新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

見捨てられた愛国者

 第二次世界大戦の後世界の頂点にたったアメリカ合衆国が、つまづいた最大の事件がベトナム戦争である。もともとフランスの植民地であったベトナムは、大戦後独立気運が高まり共産国に支援されたホー・チ・ミンが勢力を伸ばしていた。旧宗主国のフランスを追い払い、介入してきたアメリカを中心とした軍隊を相手に善戦する。

 
 1975年4月、サイゴン(現在のホー・チ・ミン市)が陥落し、約20年続いた戦争は終了した。米国は延べ250万人以上の兵士を動員して、5万8,718人の戦死者と約2,000人の行方不明者を出した。負傷者を加えた人的損失は30万人を超えている。戦死者・後遺症に悩む負傷者も痛ましいが、最大の問題は行方不明者(MIA)ともいえる。
 

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 米軍は、
 
 ・KIA(Killed in Action) 戦死者
 ・MIA(Missed in Action) 作戦中行方不明者
 ・WIA(Wounded in Action) 作戦中負傷者
 
 という記号をもって作戦中の犠牲者を区分している。余談だが、韓国の起亜自動車が米国で「KIA」と大書した看板を出しているのを米国人はどう思うのだろうか。
 
 J・C・ポロックは元グリーンベレー隊員だったという経歴しか知られていない。別名義の作品も含めて10作に満たないものしか日本には紹介されていないが、リアリティのある戦闘シーンや戦場に臨む男たちの心情が印象に残る作家である。
 
 本書は1982年の発表。ベトナムで戦い現在はスキーのインストラクターをしているキャラハン元グリーンベレー大尉のもとに、12年前にMIAになった戦友の消息が伝えられる。戦友であり部下でもあったテディモア曹長カンボジア領内の捕虜収容所で生きているという。
 
 しかしテディモア曹長を戦死と判定した軍は生存情報を無視して動かない。キャラハンは昔の仲間を集め、少人数での救出作戦を開始する。集められたのは、通信担当・軽火器担当・医療担当・爆破担当の4人。戦場から離れて10年あまり、現役時代よりなまった体を鍛えなおし、武器や移動手段を調達する。
 
 5人は劣悪な捕虜生活を送っていたテディモア曹長やその戦友を救出するが、テディモア曹長はもっとひどい状況にある捕虜の収容所の存在を訴え、彼らも救出するように言う。捕虜たちも衛兵の武器を奪って「もうひとつの救出作戦」に加わるのだ。そしてそのひどい収容所に突入すると、もはやヒトとは思えない姿になったアメリカ軍人が何人もいた。
 
 キャラハン元大尉は、数倍する敵兵の追撃を負傷者や衰弱した捕虜を守りながらかわして、迎えのヘリコプターとの合流地点に急ぐが、ヘリにアクシデントが起きて敵中に取り残されてしまう。そこに、予期せぬ救出チームが現れて・・・。最初の収容所襲撃から最後まで、M-16、Mー60、M-79(エレファント・ガン)、クレイモア地雷など米軍の兵器だけでなく、ソ連製のAK-47、30口径機関銃も含めてどのように使うかが詳述されている。
 
 本書を手に取ったのは、翻訳が出たばかりの1987年。社会人になって5年以上経ち、学生時代に読み漁ったミステリーに物足りなさを感じ、もっと刺激のあるものをとシミュレーション・ウォーゲームをやっていたころだった。ゲームの世界では戦術級でも1コマは1個分隊(10名余)であるが、ここでは生きた人間が描かれているので別の魅力があった。本書は僕が最初に出会った「特殊部隊もの」。その後アンディ・マクナブ柘植久慶、スティーブン・ハンター、マーク・グリーニーへと続いてゆくのだが、それは本書が面白かったからだと久し振りに読んでみて思いました。