新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

私的多国籍軍のターゲット

 フランスだけではないが傭兵部隊というのは、先進国の軍隊にとって必要悪である。早くに先進国になったフランスという国は、人口減少・少子化が早く訪れたので自国の防衛に傭兵隊を重視せざるを得なかった。傭兵というのは実に古い職業で、山岳地帯の国(スイス、ネパール)などは、最大の輸出品は傭兵だったのである。

 

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 なかでも有名なのは、フランスの「外人部隊」。フランス国籍を持たない17~40歳の男性なら誰でも入隊できるが、最初の訓練で75%が振り落とされるという狭き門である。フランス人はというと、軍から派遣される将校のみ(これも十分な資質がないといけない)である。
 
 本書の語り手ラウル・デュヴァリエ大尉もそんな派遣将校のひとり。オリンピックにも出たアスリートであり、軍人の家系(父親は将軍)に生まれたエリートだ。サン・シール士官学校を首席で卒業、有名モデルを妻にして人も羨む人生を送っていたが、ベトナム紛争の激戦地ディエンビエンフーで運命を狂わされる。
 
 ディエンビエンフーの敗戦については詳述しないが、外人部隊最大の敗戦だったことは確かである。ヴェトナム軍の戦力を甘く見たフランス軍はここで植民地への支配能力を事実上失った。デュヴァリエ大尉は運転の腕を買われて、外人部隊の隠し金を運ぶミッションを請け負う。外人部隊は満足させる報酬(ニンジン)を常に隠し持っているようだ。しかしラウルがたどりついた陣地は全滅、金を埋めて隠した彼を除いては全員殺されてしまう。彼自身も両足の機能を失い、長く幽閉/拷問を受けて半分の隠し金を埋めた場所をヴェトナム軍のミン大尉に教えてしまう。
 
 それから20年車椅子の会計士となったラウルは、外人部隊の後輩たちを選別し残った半分の金塊を取り戻す作戦に着手する。これに協力するのは、サン・シールの同期生ケーニグと彼が育てたアメリカ人フランクと、これに加わるアイルランド人、ドイツ人、イギリス人の外人部隊員。彼らにからむ女性たちや彼らの生い立ちを含めて、ディープな人間模様が描かれる。彼らの「レインボー作戦」は、アメリカ軍がヴェトナムから撤退した直後の混乱に乗じて発動される。
 
 作者のダグラス・ボイドの経歴は良く分かっていない。英国の諜報員だったとも言われているが、外人部隊はもちろん軍務経験はないようだ。しかしフランス外人部隊の調査は綿密で、20歳前後の若者(犯罪者も含まれます)がどのようにして結束した戦士になるのかが描かれている。本書は彼のデビュー作ですが、戦闘シーンは普通ながら人間模様は非常に緻密なものでしたね。