新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

英国海軍のゲリラ戦

 ダグラス・リーマンは、海の男の物語を多く残した作家である。彼は第二次世界大戦中、実際に船団護衛等の任務に就いた英国海軍軍人。アレクサンダー・ケント名義で、ナポレオン時代の英国海軍軍人リチャード・ボライソーを主人公にしたシリーズが30冊ばかりある。リーマン名義では第二次世界大戦ものを書いていて、どれをとっても期待を裏切らない水準と聞いている。以前、英国海兵隊を主人公にした作品「特攻艇基地を撃破せよ」を紹介している。

 
 本書も舞台は地中海、アメリカの参戦を受け補給が潤沢になった英国軍は北アフリカを確保、シチリアから南イタリアへと侵攻していった頃のことである。負傷が癒えた歴戦の艦長クリスピン少佐は、オールダンショー提督に旧式コルベット艦シスル号でチュニジアに向かうよう命令される。大型魚雷艇より一回り大きいだけの沿岸哨戒艇。4インチ砲1門とポムポム砲(40mm連装機関砲)が主兵装で、乗員は80名ほど。それも方々からの寄せ集めで、素人も多い。
 
 クリスピン艦長は副長(XO)ウィームズ大尉やベテラン兵曹の助けで、新米士官らを鍛えながら地中海に踏み込む。最初のミッションはシチリア島チュニジアの間にある小島パンテレリア島の枢軸軍基地を叩くこと。乗船した特殊部隊(SASかな?)を上陸させ、破壊工作後撤収させるのがそれである。この島の名は、地中海を扱ったゲームで知っていた。地中海航路の要衝であり、そのゲームでは恒久的な「機雷原」として扱われていた。

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 シスル号は修理や乗員の補充を受けながら、ギリシア方面からついにアドリア海に進出してチトーのパルチザンを支援することになる。クリスピン艦長の悩みは、信頼のおけるオールダンショー提督不在の間の上司スカーレット大佐とそりが合わないこと。大佐の求める無理な作戦で、シスル号は傷つきウィームズ大尉までが精神を病んでしまう。いわゆる「無能な上官、敵より怖い」というやつ。
 
 クライマックスはドイツ軍の大型武装輸送艦ナースホルン号との一騎打ち、巡洋艦並みの6インチ砲をはじめ圧倒的な火力と装甲を持つこの船に、クリスピン艦長と老嬢シスル号がどう立ち向かうかが描かれる。ひねた読者としては、普通は勝てない相手をどうやって倒すかは読めるのですが、そんなことは気にせずに「海の男の戦い」を堪能すればいいと思います。