新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ケンブリッジ、1171

 作者のアリアナ・フランクリンは、本書がデビュー作。プランタジネット朝のヘンリーⅡ世の時代の連続殺人事件を描いて、CWA最優秀歴史ミステリ賞を受賞(2007年)している。世は十字軍の時代、ヘンリーⅡ世も聖地へ出陣し、彼の治世下にあるイングランドケンブリッジ村からも、騎士たちが遠征に出ている。

 

 しかし遠征軍が戻ってから、ケンブリッジ村では子供の行方不明が続き死体で見つかるケースも出た。キリスト教徒であるイングランド人の間にはユダヤ人は祭りのいけにえに子供を拷問して殺すという言い伝えがあり、村に住むユダヤ人たちが疑われる。富裕層を含み納税もしてくれるユダヤ人を排斥すれば国家財政に響くが、キリスト教徒の怒りを鎮めないと王は教会に破門されかねない。

 

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 ヘンリーⅡ世は、シチリア王国からシモンという調査官と、アデリアという検視医を呼び寄せて事件の解決をゆだねた。若い娘が医師であることや死体に触れるなど、当時のイングランド人には理解できない。検視現場でも見つかれば、間違いなく「魔女」にされてしまう。しかしアデリアは青年税官吏ロウリー卿の助けも借りて、いくつもの腐敗した死体の見分にあたる。

 

 子供たちの骨盤には鋭いナイフの傷が残り、下腹部に異常な攻撃を加える犯行であることがわかる。腐敗していない遺体もみつかるが、いずれもまぶたを切り取るなど残忍な拷問が加えられていた。村の遠征団に加わっていたロウリー卿から遠征地の事件を聞いたアゼリアは、この悪魔のような犯人は遠征地でも犯行を繰り返していたと考える。つまり犯人は遠征団の一員だったのだ。

 

 胸の悪くなるようなシーンも多いが、上下巻600ページを貫くテーマは中世の宗教観た科学である。先進国シチリア(当時はイタリアの大部を治めたノルマン人国家)のエリート女医が、迷信に支配されたイングランドで奮闘する物語だった。また本筋ではないが十字軍の(隠された)残虐行為なども赤裸々に描かれ、歴史の勉強もさせてくれる。本格ミステリーとしてはやや意外性に欠けるが、サイコ・サスペンス風ミステリーとして読めば、CWA受賞もうなずける。

 

 このシリーズまだ2冊は出ているようなのだが見つけられていない。なんとか探してみましょう。