新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

双子のミステリー作家

 エラリー・クイーンという作家は、実は同い年のいとこ同士二人の合作時のペンネームである。夫婦の合作なども例はあるが、親近者の合作の極めつけは、本書の作者ピーター・アントニーだろう。このペンネームは、双子の兄弟が合作するときに使うもの。そして二人とも、単独でミステリーを発表しているのだ。

 

 ピーター・シェーファーモーツアルトの死を題材にした「アマデウス」の原作者であり、アントニーシェーファーは有名な戯曲「スルース」の原作や「ナイル殺人事件」の脚本を手掛けている。

 

 そんな二人は合作で本格ミステリー4編(長編3、短編1)を発表していて、そのデビュー作が本書(1951年発表)である。いずれも密室やアリバイの本格トリックが盛り込まれていて、本書は特に評価が高い。登場する探偵役は古美術収集家のヴェリティとスコットランドヤードのランブラー警部。いずれも長身の太っちょで、表紙の絵の左がヴェリティ、中央がランブラーである。

 

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 舞台はイングランドサセックス州の海岸沿いの町。人口5,000人ほど、町にはタクシーが2台しかない。その町の小さなホテルで、2階の部屋で滞在客が射殺されていた。通りかかったヴェリティが、ホテルの2階の窓から隣の部屋に侵入した男を見つけ、ホテルの人達とその部屋に駆け付けると、ドアにはカギが掛かっていた。押し破って部屋に入ると、部屋中血まみれ、死体が一つと争った跡がある。ひとつしかない窓にも内側からカギがかかり、現場は「密室」である。

 

 部屋の衣装戸棚からは、ホテルのメイドが縛られ気を失った状態で見つかる。駆け付けた警官が状況を調べ、同じホテルに滞在していて被害者と関係がありそうな容疑者が2人浮かび上がる。しかし状況を整理すると、

 

・容疑者Aは窓から入りドアから出た。ドアにカギは掛けられない。

・容疑者Bはドアから入り窓から出た。窓にカギは掛けられない。

・メイドはオートロックの衣装戸棚の中で縛られていた。

 

 と、ドアと窓の両方にカギを掛けられた人物はいないことになる。さらにメイドの恋人や、リチャードⅣ世を名乗る男まで登場し、事件は混とんとした様相を見せる。

 

 密室トリックと意外な解決と言う意味で、非常にクラシカルな本格ミステリーでした。こんな作家が日本では知られていなかったことには驚きましたが、ちょっと悪ふざけが過ぎた感もありましたね。