新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

日本の本格ハードボイルド

 1990年発表の本書は、ハードボイルド&冒険小説作家大沢在昌の代表作「新宿鮫」シリーズの最初の作品。作者は1979年「感傷の街角」でデビュー、小説推理新人賞を受けている。以降、ヴィヴィッドな作品群で受賞の常連となり、本書も推理作家協会賞を受賞し、後の「新宿鮫:無間人形」では直木賞も受賞している。

 

 初期の佐久間公シリーズでは、徹底して六本木の街を描いたのだが、本書のシリーズでは新宿を掘り下げている。オカマバーやホモが集い愛し合うサウナ、数知れないライブハウスなどが、ストレートな表現で描かれる。

 

 新宿署防犯課の鮫島警部は30歳代半ば、長身でランニングで鍛えた体は屈強だが、決して力業が得意というわけではない。実は、国家公務員上級職に合格したキャリアだ。25歳で警部に昇進、そのまま行けば30歳前には警視にもなっていただろうが、正義感が強すぎて現場でトラブルを起こし、昇進は止まってしまった。

 

 中央に置いておいても柄に合わないと考えた上司は、新宿署への異動を命じる。新宿署でも扱いに困り、防犯課(課長はずっと年上の警部)に置いて「触らぬ神」扱いだ。課内でも孤立した彼が話せるのは、妻子を亡くして「まんじゅう(死人のこと)」と呼ばれる定年間際の刑事だけ。ただ新宿の街ではヤクザにも一目置かれ、チンピラたちは畏怖して「新宿鮫」と呼んでいる。

 

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 私生活では、14歳年下の恋人晶がいる。彼女はバンドのヴォーカル、荒い男言葉を使い鮫島のことは「スケベコップ」と呼ぶ。グラマーな美女で、鮫島の唯一の心の支えだ。鮫島が執念を燃やして探す犯罪者は、銃器の密造を得意とする木津という男。すでに前科2犯だが、最近出所して都内に潜伏している。彼は密造中の工房を持っているはずなのだが、服役中もその場所は吐いていない。

 

 木津は傘やライターに見せかけたり、威力を増した独特の銃器を作ることができる。それを犯罪者に売るだけで、自分で銃を使うわけではない。鮫島が木津のいどころを掴む前に、ライフル弾で2人の派出所警官が射殺された。鮫島は、木津の密造銃を使った犯行だとにらむ。鮫島と彼の周りの人物描写は、実に生々しい。あまり日本にはないタイプの警察・・・というよりハードボイルド小説だ。

 

 この作者、これまで読んだことは無かったのですが、なかなか力のある書き手です。このシリーズ、もっと探してみましょう。