新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

カジノ船という密室

 以前ドナルド・E・ウェストレイクの「悪党パーカー」もので、洋上のカジノ船をパーカーたちが襲撃する話を紹介した。多額のカネが動きしかも現金が多いので、目標としては申し分ない。しかし潜入はともかく逃走は非常に難しい。パーカーたちがどう知恵を絞ってこの「要塞」に挑むかが売り物の小説だった。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/02/29/000000

 

 その閉鎖性と共に、船自体が12カイリ(当時)より外に出てしまえば「米国施政」の外になってしまうので賭博が禁止されているカリフォルニア州から出航していてもカジノができるのだ。

 

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 本書はE・S・ガードナーの「ペリイ・メイスンもの」の比較的初期(1937年発表)の一冊。本書でメイスン一家(ペリイ・秘書のデラ・探偵所長のポール)は、カジノ船上での射殺事件の解決を迫られる。

 

 メイスンのもとにやってきた今回の依頼人は、富豪の未亡人マチルダ。孫娘が賭博依存症でカジノ船に7,500ドルの借金を作った。この借用書を額面かそれに近い金額で取り返してほしいという。孫娘にその金を与えて返済させればいいというメイスンに、未亡人は、

 

 「孫娘を甘やかしたくないし、祖母である自分が借用書を握って立ち直らせたい。実は離婚したがっている夫がプレミア付きでカジノ船から借用書を買い取り、離婚訴訟を有利に運ぶ証拠にしようとしている」

 

 という。太平洋戦争前のことで今のドルの価値とは違うのだが、臨時雇いの探偵の日給が8ドルだとあるから、7,500ドルは相当な金額だ。(ほぼ3年間の収入にあたる) ちなみに同時期のハードボイルド探偵ものでは「日給20~50ドル」とあったので、当時から正規/非正規の差は顕著だったらしい。

 

 閑話休題、策略を巡らせてカジノ船に乗り込んだメイスンたちだが、今一歩のところで偽装がバレて借用書奪回は失敗する。このあたり、とても弁護士とは思えない非合法ギリギリの行動だ。第二段作戦でカジノ船に乗り込んだメイスンの前で、カジノ船経営者の一人が射殺されてしまう。しかもそこには孫娘の姿が・・・。準依頼人である彼女をかばうメイスンは、ついに「事後従犯」として指名手配されてしまう。

 

 珍しく法廷場面のないメイスンものでした。表題にある「危険な未亡人」の意味は最後の章であきらかにされます。