新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

おじさん刑事の肖像

 「刑事コロンボ」のシリーズは、大体富豪なり有名人なりが犯人役になる。様々な職業のカッコいい犯人に、ボロ車・ボロコート・猫背で貧相なコロンボ警部が挑むという映像的な面白さがある。今回の犯人役は、高名な画家。カリフォルニアの海岸べりにアトリエと住まいを持ち、隣には前の妻も住まわせているという男だ。

 

 この男ロイ・バルシーニは、10年ほど前までは売れない画家。そのころは妻ルイーズと場末のバーの2階で暮らし、そこで絵も描いていた。「バルシーニ・レッド」と呼ばれる独特な赤絵具を使って大きな賞を受賞した。その後はうなぎのぼりに評価を上げ大家になった。糟糠の妻とは離婚、モデル出身の現在の妻がいるが、若いモデルも同居させている。

 

 冒頭、隣に住んでいる元妻が料理を作ってくれて、ロイと3人の女でディナーを摂るシーンがある。奇妙な「家族」である。だが、元妻が不眠症に悩まされ通った先の精神科医とねんごろになり、結婚を考えるようになった。実はロイのデビューには秘密があり、元妻がその秘密を医師に話したりすると名声が崩れかねない。困ったロイは元妻の殺害を計画する。

 

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 元妻の死は事故による水死とみられたのだが、例によってなぜか殺人課のコロンボ警部が登場する。そして「細かな点」をいくつも掘り返し、ロイを追い詰めていくことになる。

 

 いわゆる「油絵」の画家の大きな才能の一つが「絵具づくり」だというのは、本書で初めて知った。医師・科学者でもあったレンブラントのアトリエは、絵具を調合する実験室のようだったと美術館の館長が言う。ロイもその独特な「赤絵具」で名声をえたのだが、そこに秘密があった。

 

 本筋とは関係ないのだが、表紙の絵にあるコロンボ警部が抱えている愛犬、名前がなく「Dog」といつも呼ばれている。事件解決の重要な手掛かりを持っている精神科医も犬好きで、この2頭が最初は警戒し合いながら仲良くなる過程が(アホらしいくらい)微笑ましい。

 

 さらにロイがコロンボをモデルにすると言い出し、コロンボが絹のスカーフを巻かされるエピソードも面白い。実はモデルとなりデッサンをしながら、捜査官と犯人は虚々実々のやりとりをするのだ。地味な作品ですが最後に、コロンボの肖像をロイが描き「実物よりずっといい男」とコロンボが独白して終わりました。