新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

警視になり損なったモース

 本書(1981年発表)は、コリン・デクスターの「モース警部もの」の1冊。すでに何冊か紹介しているのだが、地方都市オックスフォードの警察署で独身のモース警部と愛妻家のルイス部長刑事のコンビが活躍するシリーズだ。日本ではさほど名が通っていないのだが、コリン・デクスターは英国では一番有名なミステリー作家だと現地で聞いた。

 

https://nicky-akira.hateblo.jp/entry/2020/08/03/000000

 

 現に本書を含めて、このシリーズは英国推理作家協会賞のシルバーダガー賞を2度獲っていて、後にゴールドダガー賞を2度獲ることになる。かくも有名な探偵なのだが、モース警部自身の印象は決して強くない。ちょっと太めで頭髪が薄くなりかかった中年男。コロンボ警部ほど戯画化されているわけではないが、昼間っからビールを飲みすぎたり重要な手がかりをつかむのはティーチャーズ(スコッチやよね)を1本空けてからという具合。

 

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 ジェリコ街のアパートメントに住む魅力的な女性アンが、首つり死体となって発見された。アンとはモース警部も、パーティの席上で会って面識があった。死体が見つかった時、モースは付近で講演をしていて偶然現場に立ち入る。事件の捜査は同僚のベル警部だが、以後もモースはベルに黙って独自の捜査を続ける。

 

 さらに同じアパートメントで、ジャクソンという男が殴り殺されてしまう。これらの事件はベル警部が担当を続け、モースがどうして独自捜査を続けるのかは読者にも伏せられたまま。ある日モースは、上司に呼び出される。意外なことに上司は、ベルを警視に昇格させるので操作を引き継ぐように命ずる。その理由が振るっていて、

 

 「お前も優秀で、警視にという案もあった。しかし警視には渉外の仕事もある。それはお前には不向きだ」

 

 と上司は言う。ベル警部がわずかに先任とはいえ、この評価はひどいなと思ったのだが・・・。最後まで読んで謎が解けた。事件はモースの推理と行動で解決するのだが、そのやり方ときたら・・・。モース警部のファンが英国に多いのがわかるような決着の付け方でした。もう買っておいた作者の作品はこれで終わりです。5冊ほど読んで、ようやく慣れてきたという感じです。残りの作品を書店で探してみますよ。