本書は、中国問題の専門家津上俊哉氏の2015年の著書である。昨年秋に直接ご教示いただいて深い洞察を持った方と思っていたので、本書を大森のBook-offで見つけて即購入した。著者は経産省OB、在中国大使館勤務の後、北東アジア室長を経験している。経済産業研究所時代に「中国台頭」を発表、サントリー学芸賞の受賞作となった。
本書の冒頭、1990年代末WTOに加盟して急速に成長を続ける中国を目の当たりにして「口先だけの改革の日本と違う」と魅了されたとある。これは中国共産党右派が市場経済を取り入れたからで、その後左派の巻き返しで改革が頓挫する(中国では右派が国退民進、左派が国進民退)。名目上は高度成長が続いてもそれは実を伴わないもので、筆者は違和感を覚えた。その一部始終を見た筆者の著書の題名は、
2003年「中国台頭」
2011年「岐路に立つ中国」
2013年「中国台頭の終わり」
2014年「中国停滞の核心」
2015年「巨龍の苦闘~中国GDP一位の幻想」
と変わっていく。「転向したのか?」と問われた筆者は「違う、中国の方がブレたのだ!」と応じたとある。
2014年の時点で、GDP成長率7%の大半は投資によるものだという。以前は労働力の質×量の向上も寄与していたが、それはもうほとんどない。投資し続けなければ成長しない体質になっているのだ。中央政府の負債は小さいが、地方政府が野放しだったゆえその債務を肩代わりすれば、他の先進国に近い債務を負うだろうと著者は言う。すでに労働人口もピークを迎え、都市と地方の格差は広がり、安い労働力というメリットもない。共産党が「崖っぷち」に立っていて、習大人が最後の切り札として登板している状態だとある。
ただ一部のメディアが言うような「中国崩壊」の可能性はほぼなく、一方GDP一位の奪取も不可能だとある。とにかく不良債権・過剰生産設備問題などの内政改革を進めるため、外交は慎重だと筆者は言う。しかし「大国となった中国人」は、外交でも一流国の振る舞いを望む。そのサジ加減が難しいという結論だ。
本書から6年、さらに中国はブレていますね。著者自身が「戦狼外交」という表現を、昨年はお使いになりました。内政の課題も改善されたようには見えませんが、外交は強面です。地方政府のガバナンスも不十分で、それゆえデジタルを使って市民を直接統治しようとしているのかもしれません。