新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2年間で変わったこと

 本書は日経編集委員の滝田洋一氏が、亥年の始めに当たり国際情勢を俯瞰して見せた書(2019年1月出版)である。トランプ先生と習大人が表紙でにらみ合っているかのように見えるが、これが本書のキーワード「チキンゲーム」である。どちらも内外に弱みは見せられない宿命を背負っている。

 

◆トランプ先生:America Firstと偉大な米国復活を掲げ、一部から熱狂的支持を受けている。

◇習大人:経済成長はしたものの腐敗と格差拡大に悩み、最後の切り札共産党に期待されている。

 

 筆者はこの時点の世界情勢を、

 

・悪戦苦闘する民主主義 欧州での極右勢力伸長

・遠心力の強まる欧州連合 英国だけでおさまらないBrexit

・米国のカネ余りの行方 ドルを刷りすぎて実体以上に株価高騰

・不安定化する中国 自信を付けた民衆と停滞する「次の成長」

・泥沼化する中東 サウジの不安定化、シリア・イランの危機

・インフラ投資向け資金の奪い合い 中国主導AIIBの殴り込み

・最大の負け組は米国 パリ協定からの離脱など孤立化一直線

・トランプ先生の無思慮な咆哮 ノーコメント!

 

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 と捉えていた。米中対立は一応の「休戦状態」に落ち着いたが、世界中に火種が溢れているというのが本書の主旨。しかし本書出版の1年後に世界を「COVID-19」ショックが襲い、いくつかのことは激変した。感染源の中国は比較的早く立ち直ったものの、英国・欧州・米国での犠牲者はおびただしく、インドやブラジルでの被害も大きい。上記の8点のうち多くはその傾向が続いているが、中には「COVID-19」禍で隠されてしまった問題もある。

 

 一番大きな変化は「負け組」のはずの米国が戻ってきたことだろう。トランプ再選はならず、バイデン政権が国際協調路線に舵を切った。本書でアリババが米国に100万人の雇用を作るとトランプ先生に約束し、反故にしたという記事がある。マー会長が習大人の命でそうしたというのだが、そのマー会長が習大人から排斥されているというのが現状だ。本書は中国のイノベーション企業の多くが失敗していると伝えているが、それ以降かの国から情報が出てこない。

 

 欧州の情勢も不安定だ。「COVID-19」禍が収まった後、独仏の選挙がどうなるかは予断を許さない。なるほど2年前はこうだったのねと思い出させてくれた書ですが、あと2年するともっと激変しているような気がします。