新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

手近な最後のフロンティアか?

 いろいろな国のこと(米国・欧州・英国・中国・韓国)を、何冊もの新書で勉強してきた。しかし手近なところの1国はまだ手付かず、それが北朝鮮だ。トランプ政権の宥和とも見える政策がバイデン政権に代わってどうなるのか、かの国の指導者は心配しているはずだ。とうとう今月「こっちも忘れないで」とばかり、巡航ミサイル2発と弾道ミサイル2発を撃った。

 

 これにより国連安保理の下部組織は、制裁強化の意向を示している。ただ中露の反対もあり、今まで以上の強い制裁に本当になるかは疑問が残る。そんな国の現状は本当にどうなのか、本書は2018年発表のものなので比較的新しい書と思って買ってきた。著者文聖姫氏は在日コリアン2世、朝鮮新報記者などを経て「週刊金曜日」編集部員。若いころから20回近く北朝鮮に渡り、かの国の変貌ぶりを見続けてきた人だ。

 

 1995年には、ソ連崩壊や洪水被害で経済破綻に陥った北朝鮮を取材している。ルーブル経済からドル経済への移行は、事実上外貨ゼロの状態となって輸入が止まてしまった。配給も止まり、庶民は食べる物もない暮らしを続けるしかなかった。電力不足も深刻で、ブラックアウトが定常状態だった。

 

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 2010年頃になると、中国に倣った改革開放路線が奏功し、平壌を流れる大同江で作られる麦酒(クラフトビール)を飲む人が増えたり、市内ではイタリアン料理店はハンバーガーショップもある。タワーマンションに住み高級スーパーに通う「新富裕層」も目立つ。一方で一般労働者の月給は2,000ウォン程度、正規の市場で買えば米1kgで消えてしまう。当然、闇市場や副業が横行することになる。

 

 休戦ラインの向こう側には世界最強米軍がいて、中国軍は撤退してしまった。自国で100万人の兵士を抱えている現状では、経済成長に限界がある。そこで金一族は核開発を始める。狙いは軍縮である。しかしそれも核・ミサイル開発に対する経済制裁で、困難な道になっている。やはり電力不足、石油不足が堪えている。トランプ政権の宥和政策に賭けたのだが・・・。進歩派の文政権のうちに南北交流を再開したいのが本音だが、それも膠着していると本書は言う。次に保守派の大統領でも来れば、南北統一の夢は遠のく。

 

 1970年代には韓国を上回るGDPだった北朝鮮、平和裏に国を開いてくれたら、日本にとっても「最後のフロンティア」になるかもしれませんね。