新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

アイオナ派とローマ派

 本書(1994年発表)は、以前「蜘蛛の巣」や短編集を紹介したピーター・トレメインの「修道女フィデルマもの」の第一作。作者自身のデビュー作でもあるのだが、なぜか翻訳は5番目だった。

 

 時代は660年代、ブリテン島北東部のノーサンブリア王国では、カトリックの2つの宗派アイルランド系のアイオナ派とローマ派のいずれを選ぶかと言う教会会議が開かれようとしていた。古来ブリテン島にはケルト族が住んでいたのだが、ゲルマン民族大移動によってアングル人・サクソン人がやってきた。ノーサンブリア王国はサクソン人の国である。アイルランドケルト族は高度な文明を持ち、ブリテン島にも文化・宗教・技術などの面で影響を与えてきた。

 

 アイルランドのキルデアで育った王の妹フィデルマは、極めて高位の修道女であり法廷弁護士でもある、彼女は教会会議に参加するため、初めて故国を出てブリテン島に渡ってきた。そこには彼女のよく知っているアイオナ派の論客エイターン修道院長がいて、教会会議での演説を準備していた。

 

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 両派のどちらが優れているかの議論は、無宗教の僕には全く理解できない。頭の毛の剃り方から、修道者の男女は厳密に分けろ/協力すべしという「教義」を論じている。しかし議論が白熱する中、翌日に演説を控えたエイターン修道院長が刺殺されてしまった。国王オズウィーは、両派から一人づつ探偵を出させて修道院長殺しの犯人を突き止めるよう命じた。アイオナ派からはフィデルマが、ローマ派からはカンタベリー大司教の随員エルダルフが選ばれる。

 

 英国史にうとい僕は、本編を読み終わって25ページにも及ぶ脚注を読んで初めて、

 

・教会会議は実際にあったこと

・国王、大司教、主だった登場人物の大半が実在の人物であること

 

 を知る。ブリテン島では「黄色疫病」が蔓延していて、史実通りカンタベリー大司教も疫病で亡くなる。さらに国王の息子が謀反を企て、暗殺集団が国王の狙うなど教会会議の裏で多くの策謀が渦をまく。修道院長が最後にあったとおぼしきサクソン人の修道士も殺され、フィデルマに事件のカギを教えると言ってきた別の修道士もワイン樽の中で死んでいた。

 

 本格ミステリーとして堂々たる骨格の作品で、国王含めた主登場人物を一堂に集めた大団円、明解な推理は称賛できる。うーん、宗教話で難解な前半がもう少し短かったらよかったのに・・・。ごめんなさいね、そう思ってしまいます。