今月横浜ベイエリアに行って「新港中央広場」などに咲く、色とりどりのチューリップを見てきた。その中にとても濃いコーヒー色をした花弁がいくつかあり、まるで「黒い花びら」だなと思った。それが本書の題名「黒いチューリップ」である。1850年の作品で、作者のアレクサンドル・デュマは「三銃士」や「鉄仮面」で知られる歴史もの(というより大ロマン)の大家。
小学校の図書館でか、「三銃士」の子供用抄訳を読んだ記憶はある。「鉄仮面」は題名だけで怖くなって、結局読んでいない。そんなデュマの作品で本棚にあるのは本書だけだったが「黒いチューリップ」を見てしまった以上、読まないわけにはいかなかった。
時は17世紀半ば、1世紀にもわたるスペインとの独立戦争を勝ち抜いて独立したオランダには、新たな敵が迫っていた。それはフランスの「太陽王」ルイ14世。フランスには充分に整備された港がなく、オランダの諸港を手に入れてがっていたのだ。強敵フランスと宥和を図る現総理ウイットとその一家、それに対し好戦論を吐くオランダ7州連合長官オレンジ公ウイリアム。
現政権が7州連合の解体を決めたことで対立は決定的になり、辞職に追い込まれたウイットとその兄弟は暴徒によって処刑される。ウイットが名付け親になった青年貴族コルネリウスは、ただチューリップ栽培にしか打ち込まない男。大きな懸賞金がかかる「黒いチューリップ」開発に全てを捧げていた。コルネリウスの隣人ボクステルも同じ開発をしているのだが、水をあけられたと知った彼はコルネリウスを讒訴する。
逮捕され終身刑を言い渡されたコルネリウスだが、肝心の側芽を3つ隠し持って牢に入る。主人がいなくなった花畑を荒らしたボクステルは、芽が無くなっていることを知ってコルネリウスの牢に近づく。コルネリウスを助けたのは、牢番の美しい娘ローザ。彼のアドバイスによって花を咲かせる直前まで育てるのだが、ボクステルが狙っていた・・・。
古典というべき外国小説も読んでいないわけではないのだが、なるほど大ロマンとはこういうものかと理解した。解説には「デュマは大正時代の吉川英治・大佛次郎らの大衆小説の源流」とある。
本筋とは関係ないのですが、チューリップの栽培法、品種改良の方法が詳しく書かれています。いわば17世紀のバイオテクノロジーですね。