新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シュタイナ中佐最後のミッション

 本書(1991年発表)は、ジャック・ヒギンズの名作「鷲は舞い降りた」の続編。前作が完全版として再版されてから、10年の間隔を置いて発表されたものだ。チャーチル誘拐/暗殺に失敗して戦死したと思われていた、柏葉付騎士十字勲章保持者クルト・シュタイナ中佐は生きていた。胸の銃創は完治が可能なもので、現在は健康体でロンドン塔に幽閉されている。

 

 英独両サイドがシュタイナ中佐らがチャーチル誘拐を企てた事件を表ざたにしていないので、中佐はただの空軍士官捕虜として扱われている。しかし両国はそれぞれの諜報・防諜網を使って毎日暗闘を続けていて、その中に中佐が生存していて近くロンドン近郊の修道院(を利用した特殊捕虜収容所)に送られるとの情報があった。

 

 これを知った親衛隊のヒムラー長官は、配下のシェレンベルグ少将に中佐と一緒に事件を経験し生き延びたIRAのリーアム・デヴリンを巻き込んで中佐を救出せよと命じる。1カ月後に予定されている、総統とカナリス提督・ロンメル元帥のフランスでの会談の場に、中佐の生還を報告したいというのだ。

 

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 少将はポルトガルに潜伏していたデヴリンや、アメリカ人のパイロット、修道院近くの現地のスパイたちを組織化して任務にあたる。前回同様アイルランドに空挺降下したデヴリンは、IRA仲間の助けを得て修道院に近づく。そのカヴァーは「シチリアで負傷し休養中の従軍牧師・少佐」というもの。

 

 当時35歳、小柄だが射撃も格闘も強いデヴリンは、作者の他の作品でも「伝説のIRA闘士」として登場する。本書でも偉丈夫のギャング兄弟を相手に、一歩も退かない戦いを見せる。中佐とは教会での懺悔の部屋で打ち合わせし、脱出計画を実行に移す。独軍が捕獲したライサンダー直協機をアメリカ人パイロットが修道院近くの砂浜に着陸させ、無事中佐とデヴリンを「飛び立たせる」のだが、中佐にはもう一つのミッションが待っていた。

 

 時はノルマンディ上陸作戦の直前、相次ぐ間違った総統命令によりロシア戦線などで無用の犠牲者を出した軍には総統暗殺の火種がくすぶっている。一方「ヒトラーある限り、戦争はじきに終わる。暗殺してヒムラーなどが総統を継いだら戦争は永遠に続く」と暗殺阻止に努める良識派(?)もいる。

 

 単なる救出作戦でなく、ドイツ内部の暗闘を描いた傑作です。ヒギンズ作品、あと2冊ほどしか残っていないのが残念です。