新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ピット&ジョルディーニョの活躍

 以前オレゴン・ファイルやアイザック・ベルものなどを紹介したクライブ・カッスラーだが、その作家デビューは1973年の「海中密輸ルートを探れ」で、主人公は「国立海洋海中機関(NUMA)」のダーク・ピットとその仲間たちだった。上記の紹介記事で「ピットものはよく読んだ」と言っているのだが、実は本棚には残っていない。全部で25冊ほど本国では出版されて、大半は日本でも翻訳が出ているが現在はほぼ全て絶版になっている。

 

 シリーズの2/3くらいは読んだことがあるのだが、その中で最高傑作と思ったのが本書「死のサハラを脱出せよ」である。このシリーズは冒頭に、過去の海洋事故・事件などをとりあげ、それが現代の事件に絡んでくるストーリーが多い。初の邦訳「タイタニックを引き揚げろ」はその典型だが、本書の仕掛けはとても大きい。南北戦争末期、南軍の甲鉄艦テキサスが大量の金と重要な捕虜を乗せて北軍艦艇の包囲を突破、大西洋に姿を消すシーンで始まる。この戦闘シーンだけでも十二分の迫力がある。加えて1930年代の女流操縦士キティ・マノックがサハラ砂漠で遭難した事件も描かれていて、読者としてはこの2つがどう絡むのかに悩まされることになる。

 

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 そして現代、サハラ砂漠南の内陸国マリの軍事政権が、フランスの悪徳実業家と組んで大規模な環境汚染を起こしていた。汚染はニジェール川から大西洋に広がり、住民が狂暴化して人食いを始めたり、大規模な赤潮が発生する。事態を調査に向かった国連(WHO?)の科学者たちは、マリの独裁者に捕まり数ヵ月しか命が持たないという鉱山労働を強制される。ピット&ジョルディーニョは赤潮の原因を探るためニジェール川を遡り、マリで汚染源を突き止めるのだがやはりマリの独裁者に捕まってしまう。

 

 放射性の環境汚染、奴隷労働の過酷さに加えて、容赦ないサハラ砂漠の自然が生々しく描かれている。ピットら2人が広大な砂漠からどう脱出するかも秀逸。加えて国連危機管理チームのフランス兵40名がピットらと共に科学者を救出した後、古い外人部隊の砦に立てこもってジェット機・重戦車を含むマリの軍勢1,000名以上と渡り合う。

 

 スパイスリラーに戦争ものの派手さも加えた物語で、30年ぶりに読んで感動しました。作者は昨年88歳で世を去りましたが、多くのアクションものを遺してくれました。合掌。