新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「名機」の分かれる評価

 このところ太平洋戦争を舞台にした懐かしい架空戦記を紹介しているが、それらの中で必ず登場するのが「零式艦上戦闘機」、通称「ゼロ戦」である。秦郁彦氏は大蔵省から読売新聞の嘱託となり、近代史(特に戦史)の研究者として多くの著作を発表している。本書は、実際にゼロ戦に乗ったり、これと戦った人のインタビューも含めて数人のチームでまとめたものだ。20のエピソードの中には戦闘機同士の一騎打ちもあれば、重爆撃機の迎撃、果ては「特攻」まで多くのバリエーションがある。

 

零式艦上戦闘機11型(A6M2)

・エンジン 950馬力

・高度 4,200m

・全備重量 2.4トン

・翼面積 22.4㎡

・翼面荷重 104

・速力 510km/h

・兵装 7.7mm×2、20mm×2

 

 特筆すべきは極めて長い航続距離、最大のタンクを持ち落下増槽までつけた21型は、3,350km飛べたという。Bf109が約1,000km、スピットファイアが約1,800km、F4Fでも約2,500kmだった。旋回性能はこれらの重戦闘機を寄せ付けないもので、巴戦になれば勝利は確実だった。

 

        f:id:nicky-akira:20210201090022j:plain

 

 ただ防弾設備はないに等しく、構造上速力に限界があり、連合軍が一撃離脱戦法をとり、2,000馬力級の新鋭機を繰り出してくると被害が急増した。緒戦では華々しい活躍をしたものの、最後は特攻機として消費された悲劇の機体である。

 

 米国戦闘機の機銃が12.7mm、英国戦闘機は7.7mmが主体だったころに20mm2門の機関砲は重武装だった。しかし搭載できる弾数は60発/門で、射程距離も短かったようだ。初期の台南空エース坂井三郎は、主として7.7mmを使ったという。それならスピットファイアのように7.7mm8門にした方が、役に立ったかもしれない。

 

 評価の分かれる機体ゆえ、「紺碧の艦隊」では早々に生産終了となり、佐々木譲「ベルリン飛行指令」では、ヒトラーが英国上空の戦いのために長距離戦闘機を求め、1機がベルリンに到着するが「構造が弱く、防弾設備もない」として不採用になっている。

 

 本書のエピソードで面白かったのは、豪州ダーウィンを巡る戦闘で、零戦スピットファイアが闘っていること。結果は、零戦の優勢勝ちだったようだ。艦上戦闘機としての制約を外し、その分搭乗員や燃料タンクの防護を増やしたら、もう少し活躍できたのかもしれませんね。