本書(1994年発表)は、マーガレット・マロン作「デボラ・ノットもの」の第三作。ノースカロライナの若い女性判事デボラの活躍を描いたもので、前2作は彼女のベースである内陸のコルトン群(架空)での事件だったが、今回は実在の島ハーカーズ島でデボラが殺人事件に巻き込まれる。ノースカロライナ州は東西に長い地形で、東側は大西洋に面している。
内陸のタバコ産業と違い、海岸では漁業が盛ん。しかし近年観光開発、自然保護、漁獲制限などがあって漁師の暮らしは楽ではない。グローバル化で外国の安い海産物との競争もあるのだろう。デボラは一週間の予定で島を含むボーフォート地区の臨時判事を務めることになった。正規判事の不在期間を埋めるためで、特に重大事件があったわけではない。
少女時代にデボラは何度もハーカーズ島の親戚のコテージに滞在しており、今回も同じコテージで半分休暇のような日々を過ごすつもりだった。かつての恋人レヴィに会えるかもしれないとも思っていた。
しかしその甘い考えは、到着早々打ち砕かれる。昔からの知り合いの船大工マーロンの孫のボートで島めぐりをしていて、砂州で男の射殺体を見つけてしまったのだ。被害者は独立漁民同盟の会長アンディ。漁業権を巡って、観光業者や自然保護主義者と個人事業主の漁民たちとの交渉をまとめようとしていた男だ。
島の近海の漁獲量は減り、地域を代表する水鳥アビも減っている。アビのスープは地元の常食だったが、今は絶滅危惧種ゆえ禁猟対象だ。物語の各所に「アビを撃ちに行く」とのセリフが出てくるが、お上がいくら規制しても長年の伝統は簡単には変わらない。また漁師たちそのものも、アビ同様絶滅危惧種なのかもしれない。
臨時判事としてのデボラは、酔っ払い運転(車だけじゃなくボートも)や自転車泥棒などを裁きながらも、アンディの事件が頭から離れない。アンディの関連資料を地元警察から借りたデボラのコテージが、何者かに捜索される事件も起きる。かつての恋人レヴィと、新しく知り合った狩猟監視官キッドとの逢瀬も含め、デボラのハーカーズ島でも冒険が続く。
米国の田舎町の風情を十分楽しませてくれるのが、このシリーズの特徴。今回の漁村の風景描写も美しく、事件を忘れてしまいそう。もうちょっと美味しいものを取り上げてくれると嬉しいのですが。水鳥のスープではね・・・。