新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

海洋国家日本再生へ(前編)

 本書は僕が多くの軍事知識を貰うことができた、松村劭元陸将補著の海戦史。著者は陸上幕僚部、防衛研究所を経て陸上自衛隊西部方面部防衛部長で退官された、戦略・戦術研究、情報分析の専門家。数々の著書があり、以前「海から見た日本の防衛」「戦術と指揮」を紹介させてもらった。

 

 本書は2006年に中央公論社から出版されたものを、上下巻に分割して文庫化している。上巻ではギリシア・ローマ海戦の頃から、18世紀までの海戦が取り上げられている。三段櫂船、斬り込み戦術、亀甲船、舷側砲、戦列艦などの兵器や戦術の変遷とそれを活用した将軍、国家などの盛衰はとても面白いのだが、僕はもっと戦略的な視点で本書を読んだ。

 

 大国は大陸国家と海洋国家に分けることができ、その戦略は自ずと異なったものになる。前者は領土の拡張を目指し、敵国を占領することを目的とする。後者は種々の物の流通を重視し、敵国の海洋覇権力の破壊を目的とする。両者の決戦(例:アテネ対スパルタ)は容易に決着しないし、深刻な対立になりにくいが、大陸国家が海軍力を強化し始めると本格的に衝突することになると本書にある。ローマ対カルタゴの三次にわたる戦争はその代表的なもので、シチリア島の占領をねらうローマが海軍力も強化することで衝突し、地中海の流通路を命綱とするカルタゴを滅ぼすことになる。

 

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 秀吉の朝鮮半島侵攻も、当時は陸棲国家だった日本が海上補給路をおろそかにして、李舜臣の通商破壊戦に苦しめられたのが例。その後日本がシーパワーを強化し、所詮沿岸海軍だった朝鮮艦隊を撃ち破ることになった。

 

 現下の情勢から見ると、大陸国家の代表格である中国が、南シナ海進出・複数の列島線の設定など海洋進出を目指している。航空母艦の建造などシーパワーも増している。これが海洋国家である英米との衝突を予感させる背景になっていると思われる。

 

 ポルトガルやスペインの跡を継いで「七つの海」を支配した英国のシーパワー論は、

 

・海洋交通の要衝に位置する戦略的地勢

・優れた基地としての軍港の戦略的展開

・国民の海洋民族性の育成

・政府の海洋国家としての政策力

 

 を整備することにあるという。前者2つは当然として、英国はシーパワーの決め手は「シーマンシップ」にあると言っているように思う。カルタゴは海の民でシーマンシップはネイティブにあった。それにローマが追いつけた時、カルタゴは滅びた。

 

<続く>