2015年発表の本書は、4年にわたり自衛隊TOPである統合幕僚長の任にあった折木良一氏の「平和安全保障論」。筆者の統合幕僚長在任中のほとんどは民主党政権時代であり、
・震災復旧と米軍の「トモダチ作戦」
などに直面して、大変な苦労をされたと思われる。筆者は退任後も第二次安倍内閣で防衛大臣補佐官も務め、平和安全法制にも尽力されたことだろう。
世界でも有数の軍事力を持ちながら、憲法上の縛りもあって、非常にユニークな存在である自衛隊。そのあるべき姿には、自衛官としてあるいはそのTOPとして悩みぬかれたことだろう。
まず民主主義国家の軍隊とはどうあるべきか、筆者は故高坂京大教授の言葉を引用して、
・平和な国家は独立をまもる(軍事)力を持つべき。
・しかし軍備によって軍国主義化してはならない。
という条件を示した。平和な国家は例え経済的なものであっても、他国を支配もしくは支配されていてはいけない。さらに国家権力が制約されず、言論の自由の欠如・多数の専制・ある理念への狂信などはあってはならないとも言う。
護憲論者などによくある「非武装中立」などは、その地域に武力の空白を産むので、むしろ戦乱を呼ぶと全面否定している。
この時期にはすでに中国の覇権主義が顕れているのだが、筆者は上下をひっくり返した日本海~南シナ海の地図を示し、
・中国は日本列島・沖縄・台湾等によって外海への出口を封鎖されている。
・一番目立つのは沖縄と台湾の間、だから尖閣諸島は「核心的利益」である。
と説明する。一方の日本だが、石油のシーレーンを考えると、マラッカ海峡・スンダ海峡・ロンボク海峡・バシー海峡・台湾海峡がチョークポイントになるという。台湾海峡を除けば、第二次世界大戦でも有名な海戦が起きたところだ。筆者は最後に「真の自立に向けて」と持論を述べている。
ただ、現在はいかなる国家(たとえ米国・中国で)も一人では生きていけない。そんな中で「真の自立」とは何か、単に憲法9条改正で自衛隊を明記して戦力として示すくらいのことではなかろう。エネルギーも食糧も、ヒト・モノ・カネの確保も含めた存在感ある国という意味でしょうか?これはシビリアンも含めた、国民全体への宿題でしょうね。