新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

バタフライ効果の太平洋戦争

 昨日荒巻義雄の「紺碧の艦隊」シリーズを紹介したが、それに遅れること3年、SF作家田中光二が1993年~1998年の間に発表したのがこの「新・太平洋戦記シリーズ」である。作者は非常に多作で、300冊を優に超える作品群がある。NHKで教育番組のプロデューサをしていたが1971年に退社、翌年SF雑誌に連載した「幻覚の地平線」でデビューしている。

 

 初期のころには海洋やジャングルを舞台にした冒険SFが多かったのだが、後にアクションものやミステリー、架空戦記にも作風を広げるようになる。1980年に「黄金の罠」で第一回吉川英治文学新人賞を受賞しているが、他には目立つ受賞作品はない。ミステリーとしては「処刑捜査官」(1992~)や「麻薬捜査官」(1994~)、「警視庁国際特捜隊」(1993~)のシリーズがある。架空戦記は単発ものもいくつかある(幽霊空戦1995ガダルカナル、大西洋の鷲・ドイツ空母戦記1996)が、シリーズとして最長なのが本書に始まるもの。全部で11冊が出版されている。

 

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 「紺碧の艦隊」と違い「転生」や「後世」などというSF手法は使わず、「北京で蝶が羽ばたくと、ニューヨークで嵐が起きる」と例示されるバタフライ効果を使っている。始めのうちは史実をほぼなぞるのだが、少しだけ変化を付けておくと後に大きな変化をもたらすということ。本書は第一巻なので、ストーリーは戦史と同様の展開を見せる。どこが違っているかと言うと、

 

真珠湾攻撃の機動部隊は小沢提督が指揮

マレー沖海戦に備える艦隊は南雲提督が指揮

 

 と役割を入れ替えたところから始まる。水雷屋出身で航空作戦にうとい南雲中将には水雷部隊を、航空作戦に詳しい小沢中将が第一航空艦隊をという適材適所人事である。この結果、真珠湾を叩いた後機動部隊はハルゼー提督の「エンタープライズ」と交戦しこれを沈めている。また米国で学んだ暗号の専門家が日本に帰国、米国に解読されていた暗号の刷新を手助けするというエピソードもある。これは、第二巻以降に何らかの変化を与えてくれよう。

 

 「紺碧の艦隊」のように荒唐無稽ではないこのシリーズも、昔3~4冊買ったところで読むのを止めました。戦争全般を描くシリーズは、史実+αなら面白いのですが、α+史実になるとなぜか息苦しくて・・・。そんなわけで、戦術空戦もの(川又千秋)や艦隊砲戦もの(横山信義)以外は読まなくなってしまったのです。