本書の下巻には19世紀初頭のナポレオン戦争から、東西冷戦期までが記されている。大陸国家と海洋国家は、通常は同時に実現できない。ただ大陸国家が十分なシーパワーを持てれば、海洋国家に打ち勝つ機会はある。それより難しいことだが、海洋国家が十分なランドパワーを持てば、同様に機会はある。
ナポレオンは大陸を大きくまとめ、シーパワーも充実させようとしたが「トラファルガー海戦」で敗れ、その望みを絶たれた。しかし直ぐに「アウステルリッツ会戦」で大陸での版図を確実なものにしている。
ビスマルクのドイツは大陸で勢力を伸ばすとともに、英国の向こうを張った大艦隊の建造に着手する。両艦隊は「ジュットランド海戦」で砲火を交え、ドイツ艦隊にやや不利な状況で戦いを終えた。ヒトラーの時代には英国に対抗できる艦隊は存在せず、海軍はもっぱら通商破壊に従事した。ドイツには海洋覇権は無理だったわけだ。
ロシアも大陸国家ながらシーパワー充実を図ったが、新興国家日本の海軍に敗れて今に至るも海洋国家を倒せるだけのシーパワーは得られていない。清の時代の中国も巨艦を購入したものの、ロシア以前に日本に敗れている。
じゃあその日本はというと、海洋国家としての歴史はごく浅いと筆者は言う。しかも日露戦争後国家戦略を誤り、朝鮮半島から満州にまで進駐、大陸国家ロシア・中国と対峙する愚を犯す。同時に太平洋で海洋国家英米と対峙するのだから、根本が間違っていたとのこと。
ではこれからの日本はどうすればいいのか?筆者はやはり海洋国家日本をめざすべきという。では海洋国家が隣に大陸国家を持った場合どうすればいいか?答えは「統一国家をつくらせないこと」である。そういう意味で、
・ソ連がロシアになって少しだが小さくなったのはいいこと
・半島に国が2つあるのも、悪くはない
・しかし中国大陸が共産党政権で膨張(香港・ウイグル)しているのは問題
ということだと思う。筆者は2010年に亡くなっているが、遺言として日本が、
・主権の防衛
・国体の護持
・威信と尊厳の維持
・主導権の保持
・経済活動の保護
が自力で出来る国になってほしいとの願いを込めて本書を書かれたものと思われる。
幕末外国からの侵略があると訴えた男は「日本橋からオランダ・中国まで一衣帯水」と言ったとあります。海洋国家として、サイバー空間も含めた防衛体制をとれる日本にしなくてはいけませんね。