1941年発表の本書は、以前紹介した「大はずれ殺人事件」の続編。独立した2冊のように見えるが、クレイグ・ライスは2冊を通じた罠を読者に仕掛けている。それは社交界の花形美女(で大富豪!)の、モーナ・マクレーンが前作で公言したこと。
「私が多くの目撃者の前で、公の場で相手を射殺するから、私を有罪に出来たら<カジノ>の権利をあげる」
という「賭け」に、マローンの仲間ジェークとヘレンは乗ったのだ。前作ではモーナの起こしたのではない事件をマローンたちは追いかける羽目になって、事件は解決したものの「賭け」はまだ続いていた。前作で結婚することになっていた2人は、本書の冒頭ではカリブ海に新婚旅行に出かけて、毎日のように幸せな絵葉書を送ってくる。
カネもなく恋人もなく仕事(というか事件)もないマローンは、大みそかの深夜に<天使のジョー>というバーでひとりジンをあおるだけ。ところがそこに入ってきた見知らぬ男が「マローン!」と声を掛けた後、崩れ落ちて死んでしまった。外で刺されていて、何軒かのバーを巡りようやくマローンを見つけたものの、力尽きたよううだ。
男の素性も分からないうちに、マローンの基にはジェークとヘレンが別々に帰ってくる。旅行先でのいさかいで「別れることにした」と2人は言う。さらにモーナの「賭け」に勝って相手(配偶者の事)を見返してやると、同じことを言っている。<天使のジョー>で死んだ男がモーナの被害者かとも思われたが、射殺・刺殺と手口が違う。さらにモーナの屋敷に招かれた客に内の一人が、到着早々刺殺され事件は混迷の度を深めていく。
例によって、ライウイスキーを浴びながら3人のドタバタ劇は続く。マローンは冴えた推理も見せるのだが、そもそも2人のよく似た男が死んだだけで、その身元も分からない。早く容疑者が捕まってくれないと、マローンのビジネスにならないのだ。カネに困ったマローンはギャングのボスにカネを借りるという危険なことまでする。
2冊を通じてモーナが仕掛けた罠は、結構面白かった。終盤のマローンの推理も良かったのだけれど、全編を流れるユーモラスな退廃感については好みが分かれるだろう。特に「喧嘩するほど仲がいい」はずのジェークとヘレンの新婚夫婦の断絶はちょっと度が過ぎているようにも思う。まあそんなこと気にせずに、楽しく読めということかもしれませんがね。