新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

探偵をするスペンサー

 そんなの当たり前だろうと言われそうだ。ロバート・B・パーカーの描く「スペンサーの世界」では、主人公のスペンサーはボストンで開業している私立探偵である。ただしもう30余冊読んだ限りでは、彼が探偵をするのは本当に珍しい。どちらかというと犯罪者を懲らしめたり、法律の手の届かないヤカラに懲罰を与えるくらいが主なお仕事である。それが本書(2007年発表)では、浮気調査から物語が始まる。

 

 スペンサーの事務所にデニスという男がやってきて、妻ジョーダンが浮気をしているらしいので調べてくれと言う。彼女はコンコード大学の教授、デニス自身は自分の身の上を明かさない。普段なら受けない調査を、20余年前に自らとスーザンの間に起きた危機を思い出したのか、スペンサーは引き受ける。

 

 スペンサーも、普通に「私立探偵」ができるのが分かったのが本書での驚き。普通に尾行し盗聴もし、浮気の証拠をつかむ。浮気相手はコンコード大学の同僚でペリーという男。ただこの男は反戦運動組織の代表で、政府が「要警戒」のレッテルを張っている人物だった。しかもデニスはFBIの要職にある。これは単なる浮気事件ではないと直感したスペンサーは、FBIのボストン支局長に接触する。

 

        f:id:nicky-akira:20200815212043j:plain

 

 反戦活動でペリーという男は人気が高いが、その一方目についた女はだれでも口説くというプレイボーイ。その反戦集団の資金源も不透明だ。スペンサーは反戦集団の暴力部隊を警戒しながら「探偵」をするため、ホークの他に2人の(馴染みの)ガンマンを雇う。特にペリーなる男がスーザンに接近してきてからはなおさらだ。スペンサーは片道13時間もかかるクリーブランドに車を運転して出かけ、ペリーなる男の過去を探る。そこで20余年前の事件を探り当て、関係者や当時事件を担当した警官や私立探偵にも会う。本当の探偵のように事件を解決するのかと思いきや、やはりスペンサー。ペリーを脅迫して、結局は荒事で始末をつける。

 

 5~10ページほどの短い単位で章が変わり、多くが短い会話なので400ページ近い長編だが、あっという間に読めてしまう。スペンサーとスーザン・ホークらとの会話など同じ言葉の繰り返しも多い。原題の「Now & Then」は、デニスの妻の今の浮気と過去のスペンサーたちの危機を指しているのですが、どうのその辺ははっきりしません。珍しくスペンサーが優しく、まわりくどく解決をしたケースでした。