新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

壊れた家庭の物語

 ボストンの私立探偵スペンサーとその仲間たちを描いたこのシリーズ、初期の作品「失投」と「初秋」は名作だとの評価が高い。「失投」はレッドソックスのエースが脅迫されて八百長に手を染めたのを、スペンサーが救う話。「初秋」は壊れた家庭で自閉症になったひよわな少年ポールをスペンサーが鍛える話である。

 

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 「初秋」から10年、ポールはたくましく育ちプロのダンサーとして活躍している。精神科医で恋人のスーザン、相棒のホークと並んで立派な「スペンサー一家」の一員である。「初秋」の続編とも言われる本書では、ポールの母親パティが失踪したと告げられたスペンサーが、パティを探す途中でギャングの一味とコンフリクトを起こす。
 
 大人になって恋人も出来たらしいポールから見ると、母親パティは「男を見る目がなく、一人でいることもできない寂しがり屋」と見える。父親を含めてパティの選ぶ男はクズばかりだと、ポールはスペンサーらに告げる。
 
 壊れた家庭しか知らないポールは、恋人と結婚するかどうかを迷っていて、10年以上も恋人のままでいるスペンサーとスーザンに「なぜ結婚しないのか」と聞くが、はぐらかされてしまう。
 
 パティが今回選んだ男は確かにカッコいいのだが、ギャングの警官買収の手先になったあげくギャングのカネを持ち逃げする。ギャングのボスであるジョウ・ブロズも、息子のジョイスが役立たずで後継に悩んでいる。ギャングすらも「壊れた家庭」の問題を抱えているわけだ。結局ジョイスが雇った殺し屋やハンターたちとスペンサーは闘い負傷してしまうのだが、例によってホークに救われる。
 
 本書は1991年の発表。アメリカの壊れた家庭の話は一杯あるが、それを如実に表してくれたのが本書。エヴァン・ハンターの「暴力教室」のような作品でも感じたのだが、アメリカの病んだ社会を示したものだと思う。日本も、アメリカ化しています。日本にとっても対岸の火事ではありませんね。